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雪雪/醒めてみれば空耳

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2016-01-30 大切な本を、未来に逃がす

_ たくさん本を読んできて、何度も何度も読み返す大切な本もある。けれど忘れる。

格言のように刻印されやすい一行や二行は別として、ある種の読書家たちが牡孔雀が羽根を広げるように朗々と暗誦してみせる、座右の断章を所持していない。詩が大好き。でも、ワーキングメモリのひとつのセグメントに収まってしまうようなごく短いものは別として、全文を暗誦できる詩もない。

むしろそうありたい。

願わくば憶えているのは、南東微南で仰角22度みたいに、その本がどっちの方角に連れて行ってくれるのかぐらいにしたい。心をふしぎな角度にひねられたりすればその印象は反芻するし、読んだときの希少な感情を再生するために思い返すシーンはある。しかし一言一句正確に、自分に対して噛んで含めるように文章を反復したりはしない。

暗誦できるくらい、読み込みたくない。

大好きな本ほど、読み返すときに通読しない。適当なところを開いて読み始め、行きつ戻りつしながら読む。全貌が見えないように。

次にどんな言葉があらわれ、その向こうにどんな一節が待っているのか、完璧にわかってしまうなんておそろしいことだ。

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憶えれば憶えるほど、作品は過去に根を張る。

現在という魔法。この凄まじく生彩に富み繊細きわまりない表象の装置に挿入したとき、最高のコンディションであるように、ぼくは愛読書をできるだけ過去に譲り渡さないよう気をつける。過去が過去じしんの力で持ち去って行くぶんには、しょうがなく許容するけれど。

職業的研究者や批評家や翻訳家文筆家ならば、作品の中にあるすべての曲がり角を曲がりすべての扉を開けるような読み方をする意義はあると思う。でもぼくは読書家なので、大切な本に定住したくない。大切な本はいつも異境であってほしい。

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ぼくは読書家ではある。読書家でありたいな、と思う。

研究も批評も結果が重視される。しかし読書は、過程こそが本質であり、その舞台は現在である。

(ただし、厳密に読み込むことが本分である教科書やある種の人文書科学書に接するときは、また話は別だが)

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_ ひところ品切だったはずのパピルスの二冊、アニー・ディラードの『アメリカンチャイルドフッド』と『本を書く』がいつのまにか仕入れられるようになり、何冊か売ることができた。本望である。

増刷されたわけではない。92年と96年の初版のままである。ちょっと黴びていたりするところを見ると、倉庫の奥底から掘り出されたのだろうか。まあ状態が少々悪かろうが、この本たちのすばらしさにとっては些末なことである。

アニー・ディラードを読んでくれた人はしばしば、それがどんなにすばらしいか、自分のことばでは言うことができない、と言う。そのくらいであるから、仮に言えたとしても、大袈裟すぎて信じてもらえないだろう。

アニー・ディラードを買ってくれた人は、ぼくが直接おすすめして、やはりうまくは言えないぼくを信頼してくれた人だけである。ひとりでに売れたことはない。

その昔、ぼくも本が人を呼ぶ、みたいなことを感じたことがあるが、うちの店頭でいちばんとにばんにすばらしい本が人を呼ばないのだから、人が本に呼ばれる力も大したことはない。

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2016-01-27 叙景集

_ 892

背中がないものの後ろ姿のように物語がおわり、

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_ 893

水に願いがあるなら、あのときのあれはなにかをかなえた水だったのかそれは立ち尽くして。

うたっていた。

ありとあらゆる表面でうたっていた。

過ぎ去り過ぎ去り過ぎ去りし日々に空を見上げ、ながいあいだ無数の鳥の囀りを聴き続けていたもののうたううたを。

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_ 894

神々の識字率が変化する速度よりはやく、私の誕生日が暦の上を移動してゆく。

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_ 895

木造人間っていうから木でできた人間だと思っていたら木が造った人間でした。

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_ 896

脳神経で盆栽する趣味

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_ 897

「すてきなタイトルにしてくださいね」と言うと『すてきなタイトル』と付けてくるような人に「結婚してください」と言ったら「はい」と答えてくれたが、そのままどこかに行ってしまい、戻ってきたと思ったら「結婚してきました」と言う。誰とよ。

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_ 898

進化して風鈴になった海月たちの国を訪問するにあたって耳栓を買う。

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_ 899

四次元立方晶形の塩の味がする方向に振り向くために遠近法を改正する。

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_ 900

接続詞の対義語を拾い上げたとき、裏側に付着した見知らぬ助詞を見つける。それを剥ぎ取るための道具を表す名詞を、考えている人の横顔を想像している人の横顔を見つめる私の横顔。

ひとつのあたらしい言葉は、それと繋がり得るあらゆる言葉を震わせ燦めかせる万華鏡。

いくつかのあたらしい言葉は、たがいを眺め合い万華鏡を映す万華鏡。

そのときの空。

空のごとく架かり、ぬるみながら垂れ下がる雲底のように降りてくるものそれはひとりの脳裏には浮かべることのできないそれまでのすべての言葉を枕詞とするたったひとつの

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_ 寝仔 [雪雪さん。 本を置いていきます。 「冬の物語」イサク・ディネセン(新潮社) カレン・ブリクセンの「冬物語」の新..]


2016-01-26 叙景集

_ 885

海に、嬉々として月光たちが降り注ぎ、いちばん深い魚の鱗で燦めき弾けるのは誰か、競争をしている。

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_ 886

全便欠航が続く飛行場が、降りてくる飛行機の夢をみている。その飛行機から降りてきたあなたはまだ私と出会う前のあなたで、この飛行場の建設計画を依頼されているので、歩きながら周囲を見回し、参考にしようとしている。

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_ 887

冬の乾いた空気に荒れた、彼女の頬の肌のジオラマの、パーツをいっこ無くしてしまった。

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_ 888

「出身高校の美術室のにおい」という香水を買う。

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_ 889

雪の結晶を歯車とする機械の作動音を思い出させる耳鳴り。

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_ 890

「幽体離脱はたびたび経験していたんですけど、今朝は眼が醒めたら体が起き上がって朝ごはんを食べて出勤して行ってしまったんです」

「ふむ。いわゆる肉体離脱ですな。とりあえず開けたところに出ましょう。室内にいると、体が戻ってくるとき窓を突き破りますから」

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_ 891

わたしのすきな本をすきになってくれた人をすきになった。

ひどいことがあってその人と別れ、その本も手放してしまい思い出すこともなくなり。

何年もたって、呪いが解けるように思い出したとき、その本のことがいっそうたまらないほどすきになっている。

もう絶版のその本を、ネットオークションで探して検索しているうちに、あの人がその本をレヴューしている文章を見つける。

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2015-11-22 解錠音による交響楽

_ 「性格って変わるもの?」という問いを、いろんな人に幾度となく訊かれた。

一例に過ぎないが、若い頃、短気で乱暴だったぼくは、今では温和で気の長い人と目されている。うん、変わると思うよ。

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人は環境や境遇や出会う人の影響を多大に受ける。一人の人物が多様な変化の可能性を持っていても、じっさい観測されるのは現実化した一例だけだから、その振り幅を実感する機会はほぼ無い。しかし十年前に分岐した可能世界のあなたと、この世界のあなたを、今較べることが出来たら、思いの外ちがった人になっているんじゃないかな。

この世界のあなたを「あなた」と呼び、分岐先のあなたを「かなた」と呼ぶとして、十年後にあなたとかなたが会って話したら、あなたが夢中になっているバンドを、かなたは「聴いたことあるけど、まあ嫌いじゃないよ」なんて言うし、かなたが「この十年で最高の映画だった。世界観が変わった」と言う映画を、あなたは観ていないし、かなたに言われるまで観る気もなかったろう。この十年でいちばん辛かったこと、思い出したくもないそのことを、無意識が検閲してあなたは思い出せなくなっているし、かなたは思い出せるが、そもそもちがう出来事だろう。

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クラーク・エリオット『脳はすごい』(青土社)は、交通事故による脳震盪で多様な障害に見舞われた人工知能研究者の体験記である。

まずその症状が多彩で興味深い。

そして何よりも、著者がとても賢くて卓越して鋭敏ですごく粘り強い。ゆえに、知覚と精神と身体と行動に表れる様々な症状の実態と分析と悪戦苦闘が、比類ない生彩さで活写される。

脳の異常は世界の異常である。世界を変容させるような異常が、どんな角度から訪れ、どんな力で働き、それに対して理性と根性がいかに抗し得るか、あるいは抗し得ないのか。このようなことに関心のある人にとって、必読の一冊だと思う。

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後半、著者は長年の苦しみから解放してくれる画期的な治療法に出会う。それは簡便なエクササイズの補助を伴いはするものの、基本、患者の症状に応じてカスタマイズされた眼鏡をかけ、治癒の度合いに沿って掛け替えてゆくだけ。

細目は本書を読んでいただくとして、世界の「見え方」を変えてゆくことによって、脳を変えてゆくのである。この過程で、狙った治療効果に連動していろいろな狙ってない変化が起こる。まるでクラーク・エリオットの、あなたとかなたがザッピングされるみたいに、思わぬ変化が起こり、その変化が変化する。

これから読む人にあまり予断を与えないように、あえて具体的には書かないが、このあたりの展開は、「こんなに知らないことがたくさん書いてある本はひさびさだなあ」と感じるほど、新鮮な認識に満ちている。扉があるとは知らなかった場所で、鍵の外れる音がひびく、あの感じだ。

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長い間破られず、不滅の大記録と称された世界記録が、ひとたび破られると、それを破る選手が次々あらわれる。

「破れない」という認識によって抑えられていたものが「破れるんだ」という認識によって解禁される。

そういう認識の薬効が、この本にはある。こんなことが可能なんだ、世界の親しさ美しさが芸術的感性が性格が、こんなに容易に変わるんだ、という認識が、読む人の無意識の中の暗黙の常識を撤回する。たとえ「やりかた」はわからなくとも、無意識の心の準備が感性を鋭敏にして、親しみのなかった「やりかた」の情報たちを、のちのち振り向かせるだろう。

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無意識を動かすのは、「なにをするべきか」という託宣ではなく、「それはできる」という実感なのだ。

無意識が「できる」と思えなければ、したくならない。最高の勉強法とは「やりかた」ではなく、「できるんだ」という希望と、「したいんだ」という渇望である。

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Before...

_ 愛傘 [初めまして。とある蝶のハードカバーから翔んできました。 僕は希望の反対は絶望じゃなくて渇望だと思っていて。喉が潤って..]

_ 愛傘 [ですがの繰り返しと、脳の誤変換はお許しください]

_ 寝仔 [厳密に書けば酷薄と優しさの同居です。先の書き込み。 続き楽しみですが、そう言えばこの世界にはまだ描かれていない続きが..]

_ 寝仔 [雪雪さん。 故あって予定を繰り上げ帰還しました。 旅の途中でこの本を買い、お土産話と言った自分に言質を取られたがごと..]

_ 寝仔 [書くのが遅いですので、きっと2月か3月になるかもしれません。 投函しましたら手を振りに来ます。]


2015-11-12 北極星はどれですか?

_ 池谷裕二と中村うさぎの『脳はこんなに悩ましい』は、対談なので掘り下げは他のより専門的な本に譲らなければならないが、探索のきっかけになる興味深い話題に溢れている。

プラセボは、処方する医師への信頼が厚いほど、そして価格が高いほど効果が出る。

あるいはワイン好きを集めてワインを数種類用意し、でたらめな値段を表示して試飲させる実験。高価なワインに百円、安いワインに五千円みたいな表示になっているわけだが、試飲した被験者の脳内では、表示された値段に比例して快感回路が活動する。つまり高いほどおいしく感じる。

こういう話題にはあちこちで出会う。人はなんとまあ権威に弱いものであるなあとか、事前情報に踊らされて本質を見失なうことのないよう気をつけようといった感想を抱かれがちだと思うが、これは人間の長所でもある。

権威のお墨付きがあるとき、その対象の魅力が強調される能力がなかったら、人は自分の殻を破って成長する機会の多くを失う。

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本を読む人なら、自分の向かう少し先にいる羅針盤のような、あるいは遙かに見上げる北極星のような、指針となる読み手を持っているだろう。

今は自分の歯がたたない本、どこがいいのかわからない本、いくら読んでも五里霧中な本は、誰にも数限りなく存在する。そういう本の中でも「この本はあの人がすごいと言っていたのだからきっとすごいのだ」、そう信じることがその本の魅力を強調してくれるからこそ、もう少し読み進んでみようとするし、たとえ挫折してもいつか再び手に取る動機になる。

ちっともおもしろくなかった本をひさびさに手に取ったとき、おなじ本とは思えないほどおもしろかったときの感動は、ほんとうに格別だ。

権威に弱い、という人の欠点は反面、届かないものに届こうとして伸ばした腕を支えてくれる筋力でもある、と思う。

あるいは、羅針盤となる人がすごいと言っていたのだからきっとすごい、そう思うことがひとつの名前を憧れとともに心に刻印してくれないとしたら、ましてや北極星は容易には見つからないし、それに見合う高みに輝くこともない。

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2015-11-11 叙景集

_ 884

居留地を貫く幹線路を歩いてる。ふいにびょうと横殴りの風。ころんころんと道を横切っていったのは転がり草ではなく、結跏趺坐のままミイラ化した覚者。

森の際や丘の上にも結跏趺坐した人影がある。生死は不明。

静か。とても静か。

穏やかな人のそばにいると、自分も常になく穏やかな心持ちになったりするものだが、この場所は、その人の周囲に広範に「平静さ」の圏域を濃厚に展開するくらい落ち着いた人達の居留地。そんな強烈に穏やかな人たちのけはいが、幾重にも重なっているような場所だから。

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意識は個人の主人ではなく、リアルタイムの判断の権限を持っていないという知見が一般的なものとなり、意志や欲望や自由の意味が否応なく変わり、ひと時代前の文学のほとんどが、神話やメルヘンのようにしか読めなくなった頃から、悟りを開くことが容易になり、世界に覚者が増え始めた。

「『色即是空』即是色」「『空即是色』即是空」という不可思議なフレーズが、覚者の中の覚者たちから生まれ、人口に膾炙したが、むろん悟らざる身である私には意味不明である。

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覚者は共同体の鎮静剤のように働く。彼彼女らが増え過ぎると、共同体は活力や競争力を失い急速に衰亡する。加えて彼彼女らは病弱で、危険な感染源になる。免疫がひどく非活発であるために。まるで体内でさえ争いはしない、とでもいうように。ゆえに隔離せざるを得なかった。

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覚者達は煌めくような叡智を持っていた。すばらしい書物がいくつも書かれた。しかしどれもこれもおなじすばらしさだった。科学的技術的芸術的にあたらしいものはなにも生み出さなかった。ノーベル賞といえば平和賞しか獲らない賢者たち。

さらば科学や芸術の、斬新な知見を世界から掴み出すには、強烈な妄執や欲望が必要なのかもしれない。

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誰でもよかった。最初に出会った覚者に話しかけようと思っていた。

最初に動いているのを見かけた覚者は子どもだった。道筋の行く手から、私が来るのを知っていたように歩いてくる。少女か少年か、にわかには判別できない。

居留地で子どもはめずらしい存在である。覚者達はほとんど生殖しないからだ。子どもである、というだけでその人が特別な存在であろうことが分かる。

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「集められたことによって、あなた方は一層弱っています。居留地は解体され、距離を置いて一人ずつ暮らしていただくことになりました」

その人の表情は変わらない。私に判別できるほどには。

「気にしないで。私達はここで一足先に滅びます」

「そ、それは」

私は説得の言葉を継ごうとして、しかし押し黙った。そうだ、議論の余地はない。これは総意なのだ。かれらは厳密に同一の世界観を持っているのだから。

「先に、と言っても少しだけですよ」

「え」

「驚くことはありません。ありふれたことです。絶滅なんて」

そしてその人は、満面の笑みを溢れさせた。そのように見えた。表情は無表情のままで。

私は咄嗟にドローンとの接続を切った。

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轟音とともに2000㎞離れた肉体に帰還した。

いきなりの切断は奨励される行為ではない。私の認知系は自分の肉体に激突して、抽象的な土煙がおさまるまで、惑乱した。

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まだ息が荒い。

なんだあれ。

ここよりも近く今よりも高い場所を見た。ちらっと。

あの子どもは、たぶん私の悟りを開こうとしたのだと思う。なにげなく、飴の包み紙をほどくように。そこに飴があったから。

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それ以来、私の心の中には箱がある。内側から開こうとする箱が。

私の心は、いつもその箱の上に座っている。開かないように。

箱の中からノックの音がする。礼儀正しく穏やかに。余裕の間隔で忘れた頃に。

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2015-11-10 叙景集

_ 871

地表からぺりぺりと街を剥がして、ちょっと西に貼り替える。街のない住所が残る。

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_ 872

書道と柔道の交差点を右に

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_ 873

霧雨の雨音の録音

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_ 874

湿り気博物館に勤めている黴と、その妹から剥がした絆創膏

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_ 875

遠すぎてよくみえない夢をみるための双眼鏡を造っている工房で働くのが夢

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_ 876

独裁者検定準2級

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_ 877

ミクロコスモスのブーケ

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_ 878

水面に魚が次々と浮かんでくる。息を止める競争をしているらしい。

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_ 879

「生まれ変わったらもう一度結婚したい」と言っていたから待っていたらすぐに生まれ変わってきたけど、あなたと再婚できるまでにはあと16年待つわけで、長いしそのときこっちはいくつよ。

死のっかな。そんで大至急生まれ変わろっかな。

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_ 880

震度マイナス5弱

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_ 881

性欲一年分をペアで五組の方に

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_ 882

感じすぎる画布に、「触ってごめん」と謝罪しながら絵を描くのに疲れた。

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_ 883

「読まれるのが嫌いな文字です」という自己紹介を読むのは失礼。

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本日のコメント(全3件) [コメントを入れる]

_ 寝仔 [叙景集、来ていますよ、とそっと空中に囁きます。]

_ 越水利江子 [あらら、今年はまだ更新がないんですね~また出直します。遠過ぎて見えない夢が見える双眼鏡、私も欲しいです~]

_ 雪雪 [すみませぬ。 クリスマスから年末年始、世をはかなむくらい忙しかったのです。]


2015-10-29 読むときはタイムトラベラー

_ 本をたくさん読む人なら誰でも、期待して手にしたのだが、そしておもしろくないわけでもなかったのだが、なんか読み進まなくて積ん読に埋もれてしまって、さりとてどうも気になって仕方がない本がいくつもあるだろう。

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話は変わるのだが本の好きな友人とある短編集について話していたとき、好きな一編の話が合って盛り上がった。しかし彼女が別の一編について語り出したとき、僕が「あ、それまだ読んでない」と言うと、彼女はびっくりした顔をした。

「だって冒頭の一編じゃないですか、さっきのを読んでてこれを読んでないということは、雪雪さんは本を順番に読まないということですか?」

「うん。世評から最高傑作と見当がつくやつか、タイトルが気に入ったやつか、でなければ短くておもしろそうなのから読むよ」

びっくりするようなことかとこっちもびっくりしたのだが、話に入ってきたもう一人の友人が、こちらも読書家としては剛の者であったが、「えっ!順番に読まないの?」とびっくりするものだから、僕は少数派ということになってしまった。意外である。

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出先とかでなにか読みたいが選択肢がなくて、しょうがなくその場にあった普段読んでないマンガ週刊誌を読んだりコミックスの途中の巻を読んだりして、そうして出会った作品がはからずもおもしろく、1巻から買っちゃったんだよねという経験は誰しもおありだろう。ちょうど映っていた連続ドラマの途中回を何気なく観ていたら思わず引き込まれてしまって、それ以降毎週観てしまった、みたいなことも。

物語の途中というのは、「こいつなに?」とか「おまえたちつまりどういう関係?」「なにがどうなってこんな事態に?」という作者の意図しないミステリが発生して、より知的な読み心地になる。

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本を読んでいて、展開がかったるくなったり、引きが弱まって気持ちが萎えてきたときには、そこをすっ飛ばして先の方を読むとよい。今読んでいるところがおもしろくないわけであるから、そこよりおもしろい可能性は高い。先の方を読んで勢いが出てくる頃には、「なにがどうしてこうなった?」という前の方への興味も再燃しているから、あらためて元のところに戻ればいい。いくら先に飛んでもおもしろくならなかったら、自分にとってハズレだったか、読むタイミングが合ってないということがはっきりするのだから、いっそ諦めもつく。

短編集さえ順番に読む彼女たちは、「作者の意図した配列を尊重する」という意思を持っているのだろうから、まして長編を飛ばして読むのは外道と感じるであろうが、読み始めてしまえば、読者は作者でもあり、読む人によっておなじ本も違うことを伝えてくるのだから、縛りは少ないほうがよい。なにより、読めずに終わるよりは、読み進むに越したことはないだろう。

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僕自身はさいきんは、小説であれノンフィクションであれ人文書であれ、順番に読む本より順番に読まない本のほうが多い。読み進まないときの苦肉の策として飛ばすのではなく、積極的に往来しながら読む。自然にそうなった。

(ただし世の中には、読み処は断然プロット、という本もあり絶対に順番に読まないとダメな本もある。その場合はどうか、作者の意図を尊重してください)

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本日のコメント(全10件) [コメントを入れる]

Before...

_ 雪雪 [寝仔さんへ 僕は、『指輪』も『ホビット』も挫折しています。読んでいてわくわくして来ないのです。凝りに凝った設定と、..]

_ 寝仔 [雪雪さん、ありがとうございます。 今はこの一言ですべてを言います。]

_ 寝仔 [ここのお返事にまた来たいです。]

_ 寝仔 [雪雪さん。 最初に思ったのは、ああ、これですべての魔術師の原型を恐れなくてすむ(安心して他作品を読めるなあ)という..]

_ 寝仔 [悪魔についてのお話はまた。m(_ _)m]


2015-10-12 耳鳴りは、風景の名前のように

_ 予告した絵本オールタイムベスト15(ショーン・タンを除く。入れると切りがないので)です。ご参考まで。

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①『生きる』谷川俊太郎/岡本よしろう 福音館書店(たくさんのふしぎ 2013年9月号)

「生きる」はすでに声価の定まった詩作品であるが、「あーあれですか、知ってます」と、通り過ごさないでほしい。この絵本では、絵は詩の挿画ではなく詩は絵の説明ではない。絵は、とある一日の朝から夜までの点景の羅列で、詩の文言とは関係ない。しかし微妙に関わり合ってはいて、時に仕草で、ときにテーマで、ときに抑揚で、かすかに擦過するように触れ合う。その絶妙な空間。そこに生まれる魔法は、現物を見てもらうしかない。

その場を動かずに遠ざかること。それが超越論的な視野だとすれば、それを持っている知性と持っていない知性は決定的に別種である。ふだんは人間というおなじ種の名の下に、話が通じているふりをしてはいるが。

とある版元の営業のHさんに見てもらったとき、かれは最後まで黙ってめくっていたが、読み終えるとめくり直し、本に眼を落としたまま「なんですかこれは」と言った。僕はふふふと笑い返すにとどめた。「まいったな」と呟きながら買って行った、Hさんの幸運をお祈りする。ちなみにかれはふだん絵本なぞ買う人ではない。

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福音館の絵本雑誌はすべて、三年でカタログアウトします。まだ版元在庫あるはずですがお急ぎください。なお当店に在庫ありますが、返品にリスクのある商品をあまり売り場に置いておくと周囲と摩擦が生じるので、今はしまってあります。スタッフ東野にお尋ねください。

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②『悪い本』宮部みゆき/吉田尚令  岩崎書店

「怪談えほん」シリーズについて、スタッフの内輪で話していると、京極夏彦/吉田尚子の『いるのいないの』をこわいと言う人が多いのだが、僕はだんぜんこっちがこわい。過去無数にあったこわい絵本の傑作群と比較しても、別次元に到達していると思う。

書いている本人がいちばんこわかったことであろう。本は閉じることができるが、心は閉じて逃げ出すことはできないから。

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③『バルミ』ハビエル・エルナンデス/ピラール・コメス  東京書籍

架空の典型的都市の景観の推移を、古代の原野から現代まで、おなじ角度の俯瞰の全景図で細密に描いた絵本。過去へ未来へ時間を自由に散歩するように愉しく、いくら眺めていても飽きない。

同シリーズでは『レベック』と『サンラファエル』もいい。最寄りの図書館にあったらぜひ手に取ってみていただきたい。復刊熱望。

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④『どんなかんじかなあ』中山千夏/和田誠  自由国民社

今までに食べたいちばんおいしいものとか、いちばん痛かった出来事とか、肉眼で見たいちばんうつくしい人とか、殺したい人とか、経験が山脈だとして高いにせよ低いにせよひとつひとつの頂上が、その人の感情を内から眺めたときの消失点を形成する。

この本も、読んでいるあいだの気持ちと読み終わったときの気持ちの落差で、ひとつの頂上に連れ去られる。

本にさらわれて連れ去られた頂上あまたあれども、今も折に触れ、あれはすごい眺めだったなと、思い出す。

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⑤『こおり』前野紀一/斉藤俊之  福音館書店

斉藤俊之の絵本はぜんぶ好き。うまい。ジュースの中の氷の絵を見ていると、眼がしゃっこくなって、味が見えてくる。

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⑥『ハリス・バーディックの謎』クリス・ヴァン・オールズバーグ  河出書房新社

これを好き、という人にはたくさん出会った。とにかく創造を掻き立ててくれる力は抜群。さいきんこの本の「謎」の部分を侵犯するスピンアウト本が出たが、うれしいようなやめてほしいような。

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⑦『見えない道の向こうへ』クヴィント・ブーフホルツ  講談社

ひと言で言って、モノクロの『ハリス・バーディック』に対して、カラーで描かれたその姉妹編(という感じ)。『ハリス』を好きな人は聞き捨てならないと思うだろうが、本当に聞き捨てちゃ駄目な魅惑的な絵とキャプションが揃っている。

若い頃、絵の道に進むか音楽の道に進むか迷ったブーフホルツは、まるで「一瞬の音楽」のように絵を描く。

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⑧『ダーナ』たむらしげる  ほるぷ出版

静寂。そして青、青、青。

静けさが青い音のように瞳に聞こえてくる。

響き渡る静けさの、こだまは返ってこないくらいに、広い。すごく広い。

気が遠くなったと思ったら、遠くなっていったのはからだだったみたいな。

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⑨『ミラーストーン』マイケル・パリン/リチャード・シーモア/アラン・リー  岩波書店

アラン・リーの、背景の隅々まで行き渡った卓越した画力にしみじみ浸り込む。ヒロインの硬質な美しさも、一発で典型と化して保存された。

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⑩『ゆみちゃんはねぞうのわるいこです』みやざきあけ美  BL出版

豪快なユーモアというかダイナミックでチャーミング。前のめりになってたたらを踏むような読み心地。実写でもアニメでもマンガでも小説でもこの味は出ない。ナチュラルボーン絵本作家。大大大大大好き。次作にも期待している。ぜひ描き続けてほしい。

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⑪『みみお』鴻池朋子  青幻舎

本の中から何かがあふれてくることがある。さやかな風。遠くから近づいてくる楽の音。におい。重たい石がごとりと胸に置かれるような不安。突如訪れる十数年ぶりの夏。

『みみお』の中からくるのは嵐。くろぐろと、本のかたちに刳り抜かれた直方体の嵐が、どうとぶつかってきて隙間のない肉を吹き抜け、あばらをけたたましく揺さぶる。

そして、ぼくたちは「生きている時間よりずっとずっとずっと長い時間、死んでいる」と、刻みつけられた墓標みたいに立ち尽くして、読み終えた絵本を閉じることが出来ない。

一位でもいい傑作であるが、ぼくはこの絵本が「好き」と言うことができるほど器が大きくないのでこの順位。

この作者のもう一冊ある絵本、『焚書』(羽鳥書店)もすごい。けだもののような絵本。吼える。噛みついてくる。噛まれると、くろい血が滴る。この本も、一位にしないとすると、首根っこを摑んで押さえ込んでおかなければならない。

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⑫『やくそく』成田雅子  講談社

あなたが誰かの心の中の思い出だとして、今まさに忘れ去られつつあるとしたら、それをどんなふうに体験するだろうか。

しみじみとしずかなしずかな一冊。

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⑬『こっそりどこかに』軽部武宏  長崎出版

これはもう天沢的世界。好き。

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⑭『ごじょうしゃありがとうございます』シゲリカツヒコ  ポプラ社

なんだか『賢い犬リリエンタール』を思い出すなあ。めんこくて壮大。カラフルで鮮明。絶景連発。『カミナリこぞうがふってきた』もすばらしくて迷うのだが。

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⑮『ちいさなまち』藤田新策  そうえん社

めくりの効果であっと思わせてくれる、いわゆる「落ち」のある絵本。「ああ、あんなまちにすんでみたいな」「あ、やっぱりすみたくないな」「でもやっぱりすみたいな」「けどすみたくないかな」読み終わった後も、心を揺らす魅力的な街である。

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(当初ベスト12でしたが、往生際悪く増量しました)

本日のコメント(全8件) [コメントを入れる]

Before...

_ つちだゆう [知らない絵本ばかりで、これから見つけて読むのが楽しみです! そんなに絵本は詳しくないのですが、詩人の茨木のり子さん..]

_ 雪雪 [つちださんありがとうございます! 『プチキュー』を思い出させてもらって、「あれは絵の迫力がすごかったなあ」と思い返..]

_ つちだゆう [よかったです(笑)プチキューの迫力ある絵は山内ふじ江さんですね! 昨日ですが山形から埼玉に行く用事があり、その道す..]

_ 寝仔 [雪雪さん、こんばんは。 「生きる」(たくさんのふしぎ)は残念ながら版元品切れでした。 替わりに岡本よしろうさんの..]

_ 愛傘 [たむらしげるはサボテンぼうやの冒険が好きです。他の作品をあまり見かけなかったので参考にさせていただきます!]


2015-10-07 亀裂の向こうの、眼に沁みる青空

_ 9月3日のコメント欄で安良岡さんに振られたたのをきっかけに、遠い目で児童に遡行してみました。

私的な、児童文学オールタイムベスト12です。ご参考まで。10におさめたかったのですが、無理でした。

入手困難なものが多くなりましたが、それでこそ僕のようなものが語る意味がある気がします。どこかで「あっ!自分の他にもこれを好きな人がいる!」と思ってもらったりすることが、なにかのきっかけになるかもしれなくて、こんな工合で。

児童文学とジュブナイルとYAとラノベの境界は微妙ですが、「どれかと言ったら児童文学!」というにおいのものに限りました。やっぱり微妙だけど。

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①『オレンジ党と黒い釜』天沢退二郎  復刊ドットコム

団地や造成地や立て札や水溜まり。なにげない風景点景があやしさを帯びて、歩いているだけでさくっとするのは、大人になる前に天沢に出会ったせいだ。

作品の完成度よりも、受けた影響の生涯にわたる大きさを思えば、ぱっと見不動の一位。

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②『魔法使いの伝記』佐野美津男  小峰書店

この本で神や人生について、とても大事なことを学んだ。その後いろいろいろな方法でいろいろなことを経験し学び悟ったが、この本で学んだことは、別途学ぶ機会はなかった気がする。場合によっては不動の一位。

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③『ザ・ギバー』ロイス・ローリー  講談社

ここは旧版で。翻訳の差は微細。しかし決定的(とはいえ新評論版もわるいわけではない。講談社版が見つかるまで読むのを我慢すべき、という種類の差ではない)。

先験的に認識できないことの認識の可能性について、つまり不可能が可能になることについて、思いも寄らぬ角度に亀裂が入り、光が漏れ出してきた。それはある種の希望。そこは岩盤ではなかった。壁なんだ、という希望。こんな経験は他では得られない。実は不動の一位。

(しかし、web上にいくつか、おそろしいネタバレコメントがあるなあ。この比類無き貴重な読書経験を台無しする爆弾が。どうして「○○が○○だったのにはびっくり!」などと書いてしまうのか。これから読む人がびっくりする機会を奪っていると思わないのか)

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④『まぼろしブタの調査』佐野美津男  サンリード

他の大人は誰も言ってくれない痛快で冷酷な後書きに、ほんとうに危ないところを救ってもらった子どもは僕です。

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⑤『記憶の国の王女』ロデリック・タウンリー 徳間書店

最初にこのリストをアップしたとき、これを入れるのを忘れていた。記憶に埋もれてしまったのではなく。いつもそばにいるからだ。思い出したら外すわけにいかない。

次に挙げた歴史的名作『はてしない物語』とおなじ守備位置のプレイヤーである。つまり物語についての物語。客観的に見てあっちがスターで、こっちが控えだろう。でも僕はこれが好きなのだ。いろんな意味でかわいくていとおしい。本を好きな人と、その人がこれから読む物語を遠くから一生懸命応援している。この本を読んで以来、その応援はずっと変わりなく届き続けている。いじらしい。

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⑥『はてしない物語』ミヒャエル・エンデ  岩波書店

ハードカバーで読まないとダメ!ゼッタイ!って誰かが言っていたことは忘れた頃にハードカバーで読んで欲しい。

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⑦『ねぎ坊主畑の妖精たちの物語』天沢退二郎  復刊ドットコム

天沢らしさが凝縮された一冊。天沢しか書けない、天沢しか書いてくれない傑作ぞろい。五感を万遍なく刺激してくるが、五感以外もむくむくと頭をもたげてくる。「お呼びですか。ひさびさですな」みたいに。

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⑧『夜の子どもたち』芝田勝茂  福音館書店

わくわくどきどきはらはら。あの石室のシーンでは、もう限界!許して!ってくらいぞくぞくしました。

これも旧版で。装丁も口絵も含め、むしろ旧版でないと駄目。パロル舎版の加筆訂正部分はムンク顔で叫びたくなるくらいの愚挙。

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⑨『朝の少女』マイケル・ドリス  新潮社

思考の中の、とある曖昧な領域がくっきり像を結ぶ。触れると指が切れるくらいくっきりと。

本というものが世の中にあって、こんな自分とはかけ離れた人生経験を、これほどまでに生々しく積ませてくれる。ありがたい。

読んだ人はほぼ誰もが、一生忘れないだろう一冊。

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⑩『人魚の島で』シンシア・ライラント  偕成社

こういうのに出会いたいからいっぱい読んでる。読んでいるあいだ中「きたきたきたきたきましたよ」と思っていました。

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⑪『原猫のブルース』佐野美津男  三省堂

これが初佐野美津男でした。なんだか変で中途半端でいまひとつ、と、最初は思ったものです。

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⑫『ぼくの町に行きませんか』小倉明  小学館

たまらなくロマンティックでセンティメンタル。どこかに紛れて、長いこと手にしていないが、忘れられない。

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_ 遠からず、絵本オールタイムベストをやります。ちょっと引きを仕掛けてみますね。

不動の一位は、けっしてマイナーなものではないけど、よほど絵本に詳しい人でも予想はできないでしょう。

ほぼすべての書店に入荷したことがあり、しかし今も在庫している書店はほとんどないでしょう。と言っても版元が倒産しているわけではありません。てか福音館です。

ちなみに当店では2013年の刊行以来累計100冊くらい売っています。店頭で手に取ると、買ってしまう魅力があるわけです。目的買いで来る人はほぼいないでしょうから、これはかなりの威力。

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本日のコメント(全2件) [コメントを入れる]

_ 寝仔 [た、宝のお山……。]

_ 安良岡 [お忙しい中、ありがとうございました。]