_ 神を経過する位階を辿るときには、まずは点を忘れ次いで線を忘れついには面をやがては空間を忘れ、果ては時を忘れ、そのたびに新しい次元を得る。
俯瞰的な自由を得るたびに、孤立する自由を失うのだ。
三次元に棲まう我々が時を俯瞰できないように、四次元に棲まう知性の常識は、線(我々にとっての経過)を根元と捉え、かれらのうち限られた異才だけが点を超越論的に夢想するだろう。
そして点を感じる我々は、点の向こうにあるものを知らない。
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(恐らく、永井均的<私>は、我々の棲まうこの周辺でしか成立しない。肉感の帯域が、かろうじて点と時間とに跨るこの位階でしか。なぜなら<現在>−時間の点解釈−はここでしか駆動しないからだ。)
◆叢◆
今はまだくさむらであるもの。もっとも鋭敏である葉尖が、おおむね風に、かすかに焦燥に、震える。
くさむらが深くひとつ溜息をつく間に月は、満ち欠けながらいくたびも走り去った。地の底にます半眼の守り神が、千年かけてめざめるまでに森になれるだろうか。
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風に乗せて送り出す、祈りに似た種子。祈りという概念もいまだなく暦だけは知覚に刻まれてあり、ただ時が歩むことに運ばれる意図の、しかしやはりそれはどこかに届こうとして信仰の支援はひとかけらとてない戦いを、遂行するひたすら。おのれの意図さえ知らされぬまま。
月は天を、裂くいきおいで周回するも静粛。
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くさむらのかたわらで時は這い這い。まだ立って歩くことを知らない。
やがて森の息が風を取り替え世界を変えくさむらの末裔である神経叢が脳という森となり、しかして言葉を喚び出すまでは。
_ おさとウサギ [そうか、神経叢(シナプス?)って「くさむらの末裔」だったんだ……!そう想うといろんなイメージが湧いてきます。私も、自..]
◆空の充満◆
コート脇の土手に、テニスウェアの女が腰を下ろしている。煙草を喫いながら。背をこごめて自分の両腿のあいだを覗き込んでいる。
そこにどんな詩が書かれているのか。
女は本を閉じるようにぱたんと膝を合わせて顔を上げる。目が合う。ぼくにも読ませてくれませんか。
女は、煙草を投げ捨てる。火くちが、大気圏に出遭ってしまった流星のように尾を引く。
そのとき足下から上がすべて空。
_ ひきこもり蝶々 [どんなにつらい、くるしい、かなしい、怖いと思っていても、そう思っているこころ のさらにもう一段階奥のこころでは、本当..]
_ 同一性は許容し、自己同一性は解除する。私は他人になっている。当人のまま。一人称が「誰」である人があらわれる。
これを書いているのは誰ではないが、書かれることを、誰が許した。
_ おさとウサギ [一人称が「誰」である人……それを「人」と呼んでよいのかどうかもわからぬまま、私はそれを「非人称の私」と言ってみたりし..]
_ 携帯からでは、書くことのできない文章がある。慣れないせいばかりではない。
言葉が、その話をするためには使われたくないと言う。文字になるまいとして頑なになる。
いつも使っているよく馴染んだ言葉ではないこの言葉は、いつきたのか。むかし、人に初めて言葉がきたときにも、言葉はこんな態度だったのか。
言葉が自身で話し始めるときには、言葉にも言葉がくる。言葉を言葉は、まだ片言でしか使えないでいる。
マニュアルを使いこなすためのマニュアル。そんな喩えを思い付くけれど、マニュアルを使いこなすためのマニュアルを使いこなすためのマニュアルを使いこなすためのマニュアルを使いこなすためのマニュアル、という要領でマニュアルの川を遡っていけばやがて、そもそも漕ぎ出したところのマニュアルが上流から流れてきて「はじめまして、ぼくマニュアルといいます」と、何食わぬ顔で挨拶をする。
マニュアルは次のマニュアルを親切顔で読み聞かせてくれるが、そのマニュアルの中ではマニュアルがマニュアルにマニュアルを読み聞かせている。
「わかったかいマニュアル?」マニュアルはぼくにそう尋ねる。
_ 26日に仙台に帰ります。
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岸田今日子さんが亡くなってしまった。
訃報を伝えるニュースでもほとんど言及されないのだが、彼女は寡作ながら卓越した掌編の名手だった。
あっけらかんとした軽快さ、ほのかな温かみ、脳を挫きそうなる奇妙な展開、そしてにっこり微笑んだ表情と裏腹にナイフを、何気なく根元まで突き刺してくるような毒。
もしもぼくに、超短編のアンソロジーを編む機会が与えられたら、必ず岸田今日子を選ぶだろうし、そしてどれを採るか苦慮するだろう。
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彼女は少ない語数で状況を定着させるのはお手のものだったから、掌編という形式は住み心地ががよかったのだろうと思う。
しかしながらぼくにとって最も忘れ難いのは、彼女の作品群の中でも珍しく短編の分量がある「ひとみしりな入江」であって、一見してすでに心地よく秘密めいたタイトルだけれど、読み終えてみるとこのタイトルの付き方が作品からたなびく煙のように、今にも作品から離れて霧消してしまいそうな微妙な付き方で、このタイトルを作品に付けたときの作者の指遣いに溜息が出る。
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そして彼女の、おそらく唯一の長編小説である『もうひとりのわたし』も、忘れることが困難な作品だ。
ぼくも想像の翼に関しては思い切り羽ばたかせるほうだから、頭の中には迂闊に人に言えない発想が鬱勃と湧き立っている。けれどこれを読んだときには、とあるシーンで、やられた、と思った。
エッチでした。身をよじるほどエッチでした。よくもまあこんなエッチなことを思い付くなあと思った。先に思い付かれてほんとうに悔しい。
本読みの女友達が、「それってどんなシーン?」と訊いてくるから説明したことがある。そっちから訊いてきたんんだからな、遠慮なく丁寧に説明した。説明が終わった途端、彼女の顔色がさっと変わった。濡れたのだと思う。
無理もない。男であるぼくでさえ、持ってもいないクリトリスから発したなにかが、全身を痺れさせた気がしたものあのときは。
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岸田今日子の作品集は、何度も編まれているけれど、ほとんど入手困難。現存する作品集も悪くはないのだが、探してまで読もうという方には、まずは角川文庫の『一人乗り紙ひこうき』、次いでおなじく角川文庫の『ラストシーン』が、収録作のバランスがよいのでお薦めします。
_ 嵐の後の透明な午下り、揉まれ疲れた風景が皺びて、凭れかかってくる。脂気が抜け切っていて、重たくはない。木漏れ日が瞬き細密な緑が睫の先で弾ける。過がる風の切片が息となって吹き込んでくる。睡りながら流れる時がむずかり、架空の瞼があける半眼。
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繰り返して称ぶことのできない風景の名前を知覚は、逐次命名してゆく。一瞬でしか称び終えることができない、長い長い名前を。
遠くで狂おしく、唸る風が唱和しようとして果たせない。しかし風には、諦める習性がない。
Before...
_ cloudnine [また横からすみませんです。 虹を指さすなさん だーいぶ遅いお返事ですみません。 失礼などありませんので。かえってこち..]
_ 虹を指さすな(001) [あ、cloudnine さん。かえって気を遣っていただいて、申し訳ありません。 チャーミングな笑顔ですよね!(いえ..]
_ cnzvlxifs cgdxb [jczkshyxu qlnfvuzm esvpm gmxfrzq xwnhurisb uoven xqspnbgum]
_ wrxtvq zfmhsdn [kbsgmowa clsmano aytw escvw uvzne auqxjp ftqpvw]
_ Yosef [The night of the fight, you may feel a slight sting. That'..]