_ 視線のおよぶ限りにて円く切り取られた赤紫色の海に半流体の都市が溶け込んでいる
.
薙ぎ流れることの筋肉
見開いたままの眼
眼のなかをまた疾く流れるものがあり
都市の眼球は
(血走り)
膨らみ
.
浮くとは思えない
肉の風船に託して
.
泡の民衆は一粒一粒が卵であり
局所的に水のぬるむ場所は
生まれたばかりの街角であること
などを
橋の上で待つものに
笑顔を添えて伝える
.
時刻の屈伸
水平線までの歯並び
やがて水に戻る日に想いを馳せる水蒸気でいっぱいの
晴れ渡った午後には
橋の上で待つものをまた
眺めるものもいる
.
たいていは
空にいる
.
そして
上空を支えのない電線のように通りすがる視線を
ぐいと掴んで
捩じ曲げる
(海に)
.
海に視線が
重たく落ちてくる
.
逆立つ柱のような白い泡にからんで
民衆の赤い泡が
ぷちぷちと弾けることばで
なにか名付ける
_ 深夜、彼方に轟音を聴きつけた。午前も三時を回った頃である。
どどーん、がらがらがら。それがだんだん近づいてくる。巨きな人が摺り足で家屋をなぎ倒しながら歩いてくる、そういう音である。でもまさかそんな。しかしこれは、たとえ夜中でなかったとしても尋常な音ではない。あるいは礫の雨が、かたまりとなって間歇的に降ってくる、そういう音でもある(それが事実だったのだが)。
ただごとではない気がしたので、外に出てみる。
ドアを開けるとちょうど家の前の公園の向こうを、轟音の主が通過するところだ。そこは線路なのだが、並木ごしに激しい光が漏れてくる。雲間から射す陽光のように帯状に。アニメのなかの爆発直前のメカみたいに、電光をまといながらよろめき進む列車を想像してしまう。
陸橋に駆け上がると正体がわかった。
はたらくおじさんだった。
砂利トラの荷台に似たごっつくてひらたい貨車が三輛、ゆんぼの運転台ふうの機関車に牽かれていく。止まっては少し徐行、を繰り返しているので、しばらく観察することができた。
作業用車輛特有の煌々たる照明が周囲を照らしている。深夜の住宅地のまんなかに舞台のように浮かび上がって見える。
貨車には砂利が満載されている。そして四隅のうちの縦の二隅に取り付いた作業員が舟でも漕ぐように激しく体を動かすと、荷台のすそから貨車いっぱいの幅の滝のように、ずどずざーっと砂利が撒かれるのだった。
こんなふうになっていたのか。
線路脇に砂利が赴任する様子を、生まれてはじめて見た。
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