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雪雪/醒めてみれば空耳

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2007-10-05 音沙汰

_ なにも書けそうにないときでも、書き始めてみればなにごとか書き落とすことができる。脳は目的的にできており、そのときしようとしていることを支援するよう、組織的に賦活されるから。だから、しなければいけないのに手につかないことは、とりあえず着手してみるのがよい。そういうことを分かってはいてもなお手につかないこともあるけれども。

ここにわざわざやってきてくれる人はほとんど、本に関心のある人だと思うから、本のことを書いておきたい。

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大竹昭子の『図鑑少年』(小学館)は、そろそろ品切れになりそうな予感がする。散歩ものの白眉。書いているのが誰か、ときおり忘れ去っているような筆致だから、歩くのは本にまかせて読者もふわふわと心をさまよわせることができる。短く区切られてはいるけれども、いつまでも続くひとつの散歩のようにメリハリがない。開けばいつでも始めることができるお散歩のような本。そして閉じても帰ってこなくていい、そういうお散歩の本。

読書の思い出であるよりむしろ、お散歩の思い出のように体と心に残る。

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藤代冥砂『ドライ』(宝島社)もよかった。テーマはセックス限定で55編。自分のことでもあろう、知っているあの人のことでもあろうと思われるありがちな話ばかりだが、アルコールかなにかが口を滑らせなければ話されることはない程度には鮮烈だったり背徳的だったりして、あまり他人から聞かされる機会がない話。そういうバランスなので、たとえば電車のなかで自然に視線が留まった魅力的な人の、頭の中で反芻されている記憶がどういうわけか読み取れてしまって、本人に成り代わって照れ臭いような、もうけてしまったような気分になる。だから内容はそんなにHではないのだが、読後感はとてもH。

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チョロQやたまごっちが、下火になっては客層が世代交代して、周期的に流行るみたいな感じか。ちかごろ銀色夏生がまた売れ始めた。当代、詩人という看板で、じっさい詩の売上で食っていけている人はこの人くらいであろう。詩集以外はもっと売れているので、食っていける以上の実入りがあるわけであるが。この人はもしかすると、史上もっとも多くの詩集を商業出版した詩人かもしれない。

ぼくは銀色夏生の本のなかで、角川文庫の六十冊を超えるラインナップのうち、特に売れなくてなかなか増刷されない、一冊で一編の長編詩『流星の人』が突出して好きなのだが、心がどこかに出かけようとするときに降っている雪のような詩だ。降り籠める雪を眺めていると、世界と一緒に上昇してゆくように思えてくる。やみそうにないけど、出かけようかという気分になる。上のほうに出かけようかという気分に。

最新刊のエッセイ集『銀色ナイフ』が出て、好きな本が二冊になった。銀色夏生はぼくと似ていないと思うのだが、考えるすじみちや根拠がちがっても、なぜか結論はいっしょになる。そういうところがおもしろい。諸手は挙げないのだが賛成です、みたいな。仲間ではないが味方です、みたいな。

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以前紹介したローラ・カシシュケ『沈みゆく女』は、ごく少数の人から「すごくよかった」という言葉をいただいたが、その後ヴィレッジブックスから『春に葬られた光』という文庫が出ている。こちらはローラ・カジシュキーという表記になっているので、チェック漏れしている人がいるかもしれない。詩的過ぎるほど詩的な文体は健在である。この人の文章は心を引っ掻いてくるし、読んでいると動揺してくるので、じつは『沈みゆく女』もまだ読了していない。『春に葬られた光』も読み始めて最初の数十ページでいっぱいいっぱいになってしまった。しかし読んだ部分だけでも、どこに納まるかわからない未確定の印象がいくつか、心のあちこちにぶつかっては反響している。読み終わりもしないで言うが、傑作である。

本業である詩集が、訳されたりすることがあると嬉しい。この人の書く詩がどんな詩か、想像するだけで、ちょっと怖い。

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3日4日が休みだったので、今日出勤すれば『悦楽の園』が並んでいるはずだ。

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2007-10-13 書店の中の静寂な一画

_ ふた月ほど前、みどり書房にHさんが入ってきたときちょうど大きな棚替えがあって、本をたくさん動かすのを手伝ってもらった。彼女は黙々と働いて、とくに会話らしい会話もなかったが、本に触れる仕草で、とても本が好きな人だとわかった。「いままででいちばん好きな本はなに」と尋ねると、即答で『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を挙げて、「いままで自分は、いったいなにを読んできたんだろうと思いました」とだけ言った。ぼくは『西瓜糖の日々』をすすめて、「読む気にならなかったら読まなくてよいし、もし読んでも『よかったです』と言わなくていい。『読んだ? どうだった?』とも訊かない」と言っておいた。

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ある日いっしょにフェア出しをしていると、Hさんは手を動かしながら、「『世界の終わり』を読んだときに、なんて遠いんだろう、とても届かないと思ったんですけど、もっと遠くがあるんですね」そう言った。そうですか、だったら『ガレオン』はきっと、あなたに読まれるのを待っている。

数日後のHさんは、べつに腫れぼったい眼をしていたわけではないけれど、「昨夜泣きました」と顔に書いてあったので、『ガレオン』を読んだのだとわかった。「あと二週間もすれば、木地雅映子の新作が出るよ」と教えると、小声で「わー」と言った。

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『悦楽の園』が三十冊入り、最初の一冊を彼女が買った。読み終わったかどうか聞いていないのだが、正面入口の汎用台から文芸のエンド台に移すときには、心を籠めて並べていた。木を植える人のように見えた。陳列が終わると、その一画は、ぽうっと光を帯びていた。ぼくがこの本屋となんの関係もなくて木地雅映子のことも知らなくて、なんの予備知識もなく店に入り、『悦楽の園』の積まれた平台の前を通りかかったとしたら、きっとぼくは立ち止まり、手に取って開くと思う。開けば買うだろう。

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その後『悦楽の園』は一冊しか売れていない。

「私も読めて高校生の娘も読める文芸書を探しているんだけど。『一瞬の風』みたいな」という問い合わせを受けて、何冊かすすめた本はどれも却下された。お母さんの、あてが外れた表情が辛かった。帰ろうとするお母さんを引き留めて苦し紛れに『悦楽の園』を手渡すと、そこにちょうど「高校生の娘」さんがあらわれた。そのときとても静かなけはいを感じ取ったのは後付けではないと思う。お母さんは急に黙り込んで、娘に『悦楽の園』の表紙を向けると、帯のどこかを指差したように見え、そのあと手話で素早くなにか付け加えた。娘さんは帯を読んでこくりと頷き、お母さんはレジに向かった。

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