_ ふた月ほど前、みどり書房にHさんが入ってきたときちょうど大きな棚替えがあって、本をたくさん動かすのを手伝ってもらった。彼女は黙々と働いて、とくに会話らしい会話もなかったが、本に触れる仕草で、とても本が好きな人だとわかった。「いままででいちばん好きな本はなに」と尋ねると、即答で『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を挙げて、「いままで自分は、いったいなにを読んできたんだろうと思いました」とだけ言った。ぼくは『西瓜糖の日々』をすすめて、「読む気にならなかったら読まなくてよいし、もし読んでも『よかったです』と言わなくていい。『読んだ? どうだった?』とも訊かない」と言っておいた。
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ある日いっしょにフェア出しをしていると、Hさんは手を動かしながら、「『世界の終わり』を読んだときに、なんて遠いんだろう、とても届かないと思ったんですけど、もっと遠くがあるんですね」そう言った。そうですか、だったら『ガレオン』はきっと、あなたに読まれるのを待っている。
数日後のHさんは、べつに腫れぼったい眼をしていたわけではないけれど、「昨夜泣きました」と顔に書いてあったので、『ガレオン』を読んだのだとわかった。「あと二週間もすれば、木地雅映子の新作が出るよ」と教えると、小声で「わー」と言った。
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『悦楽の園』が三十冊入り、最初の一冊を彼女が買った。読み終わったかどうか聞いていないのだが、正面入口の汎用台から文芸のエンド台に移すときには、心を籠めて並べていた。木を植える人のように見えた。陳列が終わると、その一画は、ぽうっと光を帯びていた。ぼくがこの本屋となんの関係もなくて木地雅映子のことも知らなくて、なんの予備知識もなく店に入り、『悦楽の園』の積まれた平台の前を通りかかったとしたら、きっとぼくは立ち止まり、手に取って開くと思う。開けば買うだろう。
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その後『悦楽の園』は一冊しか売れていない。
「私も読めて高校生の娘も読める文芸書を探しているんだけど。『一瞬の風』みたいな」という問い合わせを受けて、何冊かすすめた本はどれも却下された。お母さんの、あてが外れた表情が辛かった。帰ろうとするお母さんを引き留めて苦し紛れに『悦楽の園』を手渡すと、そこにちょうど「高校生の娘」さんがあらわれた。そのときとても静かなけはいを感じ取ったのは後付けではないと思う。お母さんは急に黙り込んで、娘に『悦楽の園』の表紙を向けると、帯のどこかを指差したように見え、そのあと手話で素早くなにか付け加えた。娘さんは帯を読んでこくりと頷き、お母さんはレジに向かった。
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……「そういうことを分かってはいてもなお手につかないこと」ばかりの日々の中、こころがしん……となるような情景を、ありがとうございました。<br>私は『悦楽の園』を、5日間、探し続けました。<br>タイトルも著者も出版社もわかっていて、すぐに手に入れるための手段はいくつもあるとわかっていて、どうしても「書店」で出逢いたかった。<br>雪雪さんには心外とお感じになるかもしれませんが、書店の人に訊ねることもしませんでした。<br>すでにこの世に存在するとわかっていて、でも「顔」を知らぬ誰かを探すように、行く先々の書店のあちこちを彷徨いました。<br>5日目に、ようやく相まみえることができました。<br>或る大きな書店の「新刊文芸書」の棚の前の台に平積みにされて、それはありました。<br>私にも、そこが少し光って見えました。<br>左右や奥に配置された他の本よりも、『悦楽の園』の部分は低く沈んでいて、それだけ私と同じような想いでこの本をレジに持って行った人がいるんだ、ということが、私の気持ちにも小さな光となって灯りました。<br>その1冊を眼の前に、私はまだ頁を繰っていません。<br>それどころか、扉さえ開いていない。<br>「まだ、もっと遠く」を思い、あと1日、もうあと1日、と先延ばしにしてしまいます。<br>もうしばらく、この光を光のままそっと眺めていたいと思います。<br>扉を開けて、そして私のこころのどこかが開いたら、またご連絡します。
目にうかぶような、ちいさな、しずかな、静謐な、光景。<br>いつまでも、眺めていたくなるような。<br>ちいさな痛みを、いとしく思えるような。<br>ぼんやりと、やわらかなあたたかさにつつまれてみえるような。<br><br>地元のほんやさんに、一冊だけ入ったという『悦楽の園』は、あたしのところに届きました。<br>まだ、拝読してはいないのですが、この本があたしのところにきてしまったことを悲しまないように、大切に読みたいと思います。<br><br>最近、ことばのちからを信じられなくなったらどうしようと、不安でたまらなかったのですが、雪雪さんの言葉に触れて、すこし落ち着くことができました。<br>どうもありがとうございました。
私の周りの書店には『悦楽の園』を置いていませんでした。求めている人の手にちゃんと渡るのだろうか、必要としている人の手にちゃんと渡るのだろうかと、えらそうに心配なんかしてしまっていました。<br>でも本は結構辛抱強く待ってくれるから、『氷の海のガレオン』が絶版になった後でも誰かの手元に渡るように、この本も目のとどくところで待っていてほしい、と思います。
初めまして。「八本脚の蝶」を読んでなんだか気持ちがおさまらずこちらに寄らせていただきました。自分の中の言葉の世界の扉は長くしまっていたように思いますが、最近何だか少しひらいてきたような気がします。子どもの頃にはたどった随分手前で止まっているようには思うのですが、僕ももうすこしだけ先に進んでみたい気がします。とりあえず、まだ見えない世界があるということを、お教えいただいたような気がするので、どうもありがとうございました。
雪雪さん、ありがとうございます。<br>今日自分の事をブログに書いてくれたと聞き、読まずにはいられませんでした。<br>悦楽の園、一冊届くべき人の手に届いたと知り、うれしくって涙がでてしまいました。二枚のスリップは雪雪さんと私だけなのだとずっと思い込んでいたのです。<br>木地雅映子作品を必要としている人はまだまだいるはずです。決して一気に売れていく本ではないけれど、いつまでもいつまでも、自分の使命のように、この本がちゃんと届くよう。いいんだよ、って言ってもらえるのを待っている人のために。大事にしていきたいです。<br>素直に表現できませんが、雪雪さんに出会えてとても幸せです。ずっと書店に戻ることを迷っていました。まだまだ内面の不安は拭えませんが、それに優る方に出会えた自分は運がいいなって思います。雪雪さんにとってはなんでもない事でしょうけど。<br>未熟者ですが、これからもずっとずっと後を追っていきます。見捨てずにいてください。
お元気ですか。<br> こちらでははじめましてになりますが、500文字の心臓ではお会いしております。心臓では苗字もカタカナ書きですが。<br> 実は心臓を知ったのはこちらのサイトで取り上げておられたからなんです。雪雪さんが作品でバトルをしているというので、あちらを見に行ったらハマりました。それが今に続いております。<br> 今回のタイトル競作ではお見えではなかったので、作品を楽しみにしている者としては残念です。またいつかあちらでお会いできるのを楽しみにしております。<br> 諸事情を考慮せずプレッシャーをかけているのではありません。一ファンの声として。
雪雪さん、私はひょっとしたら「待てない」かもしれません。<br>つまり、雪雪さんへの言葉を発したい、ということについて。メールは跳ね返されてきました。「応」の言葉を信じたいのですけれど、ご連絡かないませんでしょうか。
☆おさとウサギさんへ<br>わかりました。<br>11月7日か8日にメールします。
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