晴天の休日に、どこかで会った気がする蝶が庭をよぎっていく。見憶えはない。
目で追っていくと、振り返って手を振るようなしぐさで揺れた。
ああそういえば遅番で出た日、かがんで靴にかかとを入れているとき、玄関先の名も知らぬ紫の花にしがみついていた毛虫と目が合って、おはようと言ったことがあった。
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◆ノイズレス◆
精神科医の中井久夫氏は文字に色を感じる共感覚者で、よい文章は色の配合が美しいから、ページを眺めただけで書物の水準が分かるという。同種の共感覚者で、生来の赤緑色盲なのだが、文字から感じる色としてだけ、赤と緑を見ることができる人の報告をどこかで読んだ。なんだか空想の翼が、はばたきたがる話である。
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大学時代の友人Yは色彩に音を感じるという共感覚者だった。あるときを蛍光灯の下に立って、CDを見詰めて泣いていた。まさか見るだけで音楽を再生できるのかと思ったがそうではなくて、CDに映る光は鏡面上で分光されるので、物体色では通常あり得ないあざやかなスペクトルが見えて、耳からは聴いた事のない美しい音がするのだと言う。言われてみるとなるほどCDに映る光はほんとうに美しい。これが音になるなら、さぞや澄み切った音であろうと思った。
Yによるとこれに匹敵する実体験は、アラスカの僻村で見たオーロラだけで、「光でできたハープがひとりでに鳴っているような、最高のメロディが響き渡った」そうである。
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まだ人類が音楽を持たない時代にYみたいな人がいて、旅の途上にオーロラを見ることがあったとしよう。そのとき音楽の歴史が堰を切るように始まったとしても、意外ではない。
_ 空穂 [お久しぶりです。関係のない場所へのコメント申し訳ありませんが、ご容赦ください。 個人的に大至急、連絡をとりたいことが..]