全便欠航が続く飛行場が、降りてくる飛行機の夢をみている。その飛行機から降りてきたあなたはまだ私と出会う前のあなたで、この飛行場の建設計画を依頼されているので、歩きながら周囲を見回し、参考にしようとしている。
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「幽体離脱はたびたび経験していたんですけど、今朝は眼が醒めたら体が起き上がって朝ごはんを食べて出勤して行ってしまったんです」
「ふむ。いわゆる肉体離脱ですな。とりあえず開けたところに出ましょう。室内にいると、体が戻ってくるとき窓を突き破りますから」
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わたしのすきな本をすきになってくれた人をすきになった。
ひどいことがあってその人と別れ、その本も手放してしまい思い出すこともなくなり。
何年もたって、呪いが解けるように思い出したとき、その本のことがいっそうたまらないほどすきになっている。
もう絶版のその本を、ネットオークションで探して検索しているうちに、あの人がその本をレヴューしている文章を見つける。
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水に願いがあるなら、あのときのあれはなにかをかなえた水だったのかそれは立ち尽くして。
うたっていた。
ありとあらゆる表面でうたっていた。
過ぎ去り過ぎ去り過ぎ去りし日々に空を見上げ、ながいあいだ無数の鳥の囀りを聴き続けていたもののうたううたを。
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「すてきなタイトルにしてくださいね」と言うと『すてきなタイトル』と付けてくるような人に「結婚してください」と言ったら「はい」と答えてくれたが、そのままどこかに行ってしまい、戻ってきたと思ったら「結婚してきました」と言う。誰とよ。
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接続詞の対義語を拾い上げたとき、裏側に付着した見知らぬ助詞を見つける。それを剥ぎ取るための道具を表す名詞を、考えている人の横顔を想像している人の横顔を見つめる私の横顔。
ひとつのあたらしい言葉は、それと繋がり得るあらゆる言葉を震わせ燦めかせる万華鏡。
いくつかのあたらしい言葉は、たがいを眺め合い万華鏡を映す万華鏡。
そのときの空。
空のごとく架かり、ぬるみながら垂れ下がる雲底のように降りてくるものそれはひとりの脳裏には浮かべることのできないそれまでのすべての言葉を枕詞とするたったひとつの
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_ たくさん本を読んできて、何度も何度も読み返す大切な本もある。けれど忘れる。
格言のように刻印されやすい一行や二行は別として、ある種の読書家たちが牡孔雀が羽根を広げるように朗々と暗誦してみせる、座右の断章を所持していない。詩が大好き。でも、ワーキングメモリのひとつのセグメントに収まってしまうようなごく短いものは別として、全文を暗誦できる詩もない。
むしろそうありたい。
願わくば憶えているのは、南東微南で仰角22度みたいに、その本がどっちの方角に連れて行ってくれるのかぐらいにしたい。心をふしぎな角度にひねられたりすればその印象は反芻するし、読んだときの希少な感情を再生するために思い返すシーンはある。しかし一言一句正確に、自分に対して噛んで含めるように文章を反復したりはしない。
暗誦できるくらい、読み込みたくない。
大好きな本ほど、読み返すときに通読しない。適当なところを開いて読み始め、行きつ戻りつしながら読む。全貌が見えないように。
次にどんな言葉があらわれ、その向こうにどんな一節が待っているのか、完璧にわかってしまうなんておそろしいことだ。
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憶えれば憶えるほど、作品は過去に根を張る。
現在という魔法。この凄まじく生彩に富み繊細きわまりない表象の装置に挿入したとき、最高のコンディションであるように、ぼくは愛読書をできるだけ過去に譲り渡さないよう気をつける。過去が過去じしんの力で持ち去って行くぶんには、しょうがなく許容するけれど。
職業的研究者や批評家や翻訳家文筆家ならば、作品の中にあるすべての曲がり角を曲がりすべての扉を開けるような読み方をする意義はあると思う。でもぼくは読書家なので、大切な本に定住したくない。大切な本はいつも異境であってほしい。
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ぼくは読書家ではある。読書家でありたいな、と思う。
研究も批評も結果が重視される。しかし読書は、過程こそが本質であり、その舞台は現在である。
(ただし、厳密に読み込むことが本分である教科書やある種の人文書科学書に接するときは、また話は別だが)
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_ ひところ品切だったはずのパピルスの二冊、アニー・ディラードの『アメリカンチャイルドフッド』と『本を書く』がいつのまにか仕入れられるようになり、何冊か売ることができた。本望である。
増刷されたわけではない。92年と96年の初版のままである。ちょっと黴びていたりするところを見ると、倉庫の奥底から掘り出されたのだろうか。まあ状態が少々悪かろうが、この本たちのすばらしさにとっては些末なことである。
アニー・ディラードを読んでくれた人はしばしば、それがどんなにすばらしいか、自分のことばでは言うことができない、と言う。そのくらいであるから、仮に言えたとしても、大袈裟すぎて信じてもらえないだろう。
アニー・ディラードを買ってくれた人は、ぼくが直接おすすめして、やはりうまくは言えないぼくを信頼してくれた人だけである。ひとりでに売れたことはない。
その昔、ぼくも本が人を呼ぶ、みたいなことを感じたことがあるが、うちの店頭でいちばんとにばんにすばらしい本が人を呼ばないのだから、人が本に呼ばれる力も大したことはない。
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