_ 予告した絵本オールタイムベスト15(ショーン・タンを除く。入れると切りがないので)です。ご参考まで。
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①『生きる』谷川俊太郎/岡本よしろう 福音館書店(たくさんのふしぎ 2013年9月号)
「生きる」はすでに声価の定まった詩作品であるが、「あーあれですか、知ってます」と、通り過ごさないでほしい。この絵本では、絵は詩の挿画ではなく詩は絵の説明ではない。絵は、とある一日の朝から夜までの点景の羅列で、詩の文言とは関係ない。しかし微妙に関わり合ってはいて、時に仕草で、ときにテーマで、ときに抑揚で、かすかに擦過するように触れ合う。その絶妙な空間。そこに生まれる魔法は、現物を見てもらうしかない。
その場を動かずに遠ざかること。それが超越論的な視野だとすれば、それを持っている知性と持っていない知性は決定的に別種である。ふだんは人間というおなじ種の名の下に、話が通じているふりをしてはいるが。
とある版元の営業のHさんに見てもらったとき、かれは最後まで黙ってめくっていたが、読み終えるとめくり直し、本に眼を落としたまま「なんですかこれは」と言った。僕はふふふと笑い返すにとどめた。「まいったな」と呟きながら買って行った、Hさんの幸運をお祈りする。ちなみにかれはふだん絵本なぞ買う人ではない。
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福音館の絵本雑誌はすべて、三年でカタログアウトします。まだ版元在庫あるはずですがお急ぎください。なお当店に在庫ありますが、返品にリスクのある商品をあまり売り場に置いておくと周囲と摩擦が生じるので、今はしまってあります。スタッフ東野にお尋ねください。
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②『悪い本』宮部みゆき/吉田尚令 岩崎書店
「怪談えほん」シリーズについて、スタッフの内輪で話していると、京極夏彦/吉田尚子の『いるのいないの』をこわいと言う人が多いのだが、僕はだんぜんこっちがこわい。過去無数にあったこわい絵本の傑作群と比較しても、別次元に到達していると思う。
書いている本人がいちばんこわかったことであろう。本は閉じることができるが、心は閉じて逃げ出すことはできないから。
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③『バルミ』ハビエル・エルナンデス/ピラール・コメス 東京書籍
架空の典型的都市の景観の推移を、古代の原野から現代まで、おなじ角度の俯瞰の全景図で細密に描いた絵本。過去へ未来へ時間を自由に散歩するように愉しく、いくら眺めていても飽きない。
同シリーズでは『レベック』と『サンラファエル』もいい。最寄りの図書館にあったらぜひ手に取ってみていただきたい。復刊熱望。
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④『どんなかんじかなあ』中山千夏/和田誠 自由国民社
今までに食べたいちばんおいしいものとか、いちばん痛かった出来事とか、肉眼で見たいちばんうつくしい人とか、殺したい人とか、経験が山脈だとして高いにせよ低いにせよひとつひとつの頂上が、その人の感情を内から眺めたときの消失点を形成する。
この本も、読んでいるあいだの気持ちと読み終わったときの気持ちの落差で、ひとつの頂上に連れ去られる。
本にさらわれて連れ去られた頂上あまたあれども、今も折に触れ、あれはすごい眺めだったなと、思い出す。
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⑤『こおり』前野紀一/斉藤俊之 福音館書店
斉藤俊之の絵本はぜんぶ好き。うまい。ジュースの中の氷の絵を見ていると、眼がしゃっこくなって、味が見えてくる。
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⑥『ハリス・バーディックの謎』クリス・ヴァン・オールズバーグ 河出書房新社
これを好き、という人にはたくさん出会った。とにかく創造を掻き立ててくれる力は抜群。さいきんこの本の「謎」の部分を侵犯するスピンアウト本が出たが、うれしいようなやめてほしいような。
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⑦『見えない道の向こうへ』クヴィント・ブーフホルツ 講談社
ひと言で言って、モノクロの『ハリス・バーディック』に対して、カラーで描かれたその姉妹編(という感じ)。『ハリス』を好きな人は聞き捨てならないと思うだろうが、本当に聞き捨てちゃ駄目な魅惑的な絵とキャプションが揃っている。
若い頃、絵の道に進むか音楽の道に進むか迷ったブーフホルツは、まるで「一瞬の音楽」のように絵を描く。
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⑧『ダーナ』たむらしげる ほるぷ出版
静寂。そして青、青、青。
静けさが青い音のように瞳に聞こえてくる。
響き渡る静けさの、こだまは返ってこないくらいに、広い。すごく広い。
気が遠くなったと思ったら、遠くなっていったのはからだだったみたいな。
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⑨『ミラーストーン』マイケル・パリン/リチャード・シーモア/アラン・リー 岩波書店
アラン・リーの、背景の隅々まで行き渡った卓越した画力にしみじみ浸り込む。ヒロインの硬質な美しさも、一発で典型と化して保存された。
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⑩『ゆみちゃんはねぞうのわるいこです』みやざきあけ美 BL出版
豪快なユーモアというかダイナミックでチャーミング。前のめりになってたたらを踏むような読み心地。実写でもアニメでもマンガでも小説でもこの味は出ない。ナチュラルボーン絵本作家。大大大大大好き。次作にも期待している。ぜひ描き続けてほしい。
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⑪『みみお』鴻池朋子 青幻舎
本の中から何かがあふれてくることがある。さやかな風。遠くから近づいてくる楽の音。におい。重たい石がごとりと胸に置かれるような不安。突如訪れる十数年ぶりの夏。
『みみお』の中からくるのは嵐。くろぐろと、本のかたちに刳り抜かれた直方体の嵐が、どうとぶつかってきて隙間のない肉を吹き抜け、あばらをけたたましく揺さぶる。
そして、ぼくたちは「生きている時間よりずっとずっとずっと長い時間、死んでいる」と、刻みつけられた墓標みたいに立ち尽くして、読み終えた絵本を閉じることが出来ない。
一位でもいい傑作であるが、ぼくはこの絵本が「好き」と言うことができるほど器が大きくないのでこの順位。
この作者のもう一冊ある絵本、『焚書』(羽鳥書店)もすごい。けだもののような絵本。吼える。噛みついてくる。噛まれると、くろい血が滴る。この本も、一位にしないとすると、首根っこを摑んで押さえ込んでおかなければならない。
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⑫『やくそく』成田雅子 講談社
あなたが誰かの心の中の思い出だとして、今まさに忘れ去られつつあるとしたら、それをどんなふうに体験するだろうか。
しみじみとしずかなしずかな一冊。
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⑬『こっそりどこかに』軽部武宏 長崎出版
これはもう天沢的世界。好き。
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⑭『ごじょうしゃありがとうございます』シゲリカツヒコ ポプラ社
なんだか『賢い犬リリエンタール』を思い出すなあ。めんこくて壮大。カラフルで鮮明。絶景連発。『カミナリこぞうがふってきた』もすばらしくて迷うのだが。
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⑮『ちいさなまち』藤田新策 そうえん社
めくりの効果であっと思わせてくれる、いわゆる「落ち」のある絵本。「ああ、あんなまちにすんでみたいな」「あ、やっぱりすみたくないな」「でもやっぱりすみたいな」「けどすみたくないかな」読み終わった後も、心を揺らす魅力的な街である。
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(当初ベスト12でしたが、往生際悪く増量しました)
作家になる前から大好きだった絵本が幾つも!…と、思わず喜んでコメントします。 <br>『生きる』『こおり』『ハリス・バーディックの謎』『ダーナ』は、今も大切な絵本として本棚に!『悪い本』は最近ですが、私も怪談絵本シリーズで一番怖いと思いました~ <br>私は、海外絵本ですけれど、バーバラ・クーニーの『空がレースにみえるとき』も、『ダーナ』と同じぐらい好きです~
『ハリス・バーディック』『悪い本』あたりは応援するまでもない安定銘柄だと思いますけど、ほとんど出会う機会のない『生きる』『こおり』『ダーナ』に票が入ってうれしいです。 <br>バーバラ・クーニーはいっぱい出てますけど『空がレースに』は手に取ったことがありませんでした。ほぼ40年前の刊行ですが、おお! まだ流通している! さっそく注文しました。 <br>
わーい。増えています! <br>子どもの頃、たくさんのふしぎを読んで育ちました。 <br>一本のえんぴつのむこうに、からいつまでだったでしょう。 <br>付属の新聞のすみからすみまで読むほど大好きでした。 <br>いちばん怖かったのは、生き物を穴の数でドーナツみたいに変えてしまう話。間違えた答えを選んだ子どもたちの前にしゃー! <br>さかさまさかさ、や、鉄道の物語、大人になって逆にイメージが重ね塗りされ過ぎてしまった「熊よ」。 <br>他にも楽しい本がたくさん詰まっていました。 <br> <br>絵と字を一緒に楽しむことができないせっかちさで、もうずいぶん絵本を手にとっていません。 <br>版型が揃わないのと、実年齢お子様たちやお母さんが来ると、さっと場所を譲らざるを得ません。 <br>(なにしろ彼らはとても忙しいのです。気を遣われてはいけません) <br>などと長々と言い訳をいたしましたが、まったく弱いジャンルですのでこれからは子ども心に帰って売り場をブラブラしてみようと思います。 <br>楽しいです!
知らない絵本ばかりで、これから見つけて読むのが楽しみです! <br>そんなに絵本は詳しくないのですが、詩人の茨木のり子さんが一冊だけ残された「貝の子プチキュー」という絵本がとても印象に残っています。 <br>雪雪さんが1つ前の記事で取り上げていた、マイケル・ドリスの「朝の少女」は僕も大好きで、(それ故にラストが何とも言えないくらい苦しくなるのですが・・・。)この「貝の子プチキュー」も形は違えどラストが実に深みのある終わり方になっています。 <br>茨木のり子さんは詩人としての作品がとても有名ですが、もっと沢山の絵本を書いて欲しかったなと思います。もし未読でしたらぜひ♪
つちださんありがとうございます! <br>『プチキュー』を思い出させてもらって、「あれは絵の迫力がすごかったなあ」と思い返して、あっ!絵の迫力といえばあれだ!と、繋がって、鴻池朋子を思い出しました。 <br>絵本というジャンルの柵の外を駆け回っているような野生の絵本なので、「絵本、絵本」と考えているときは想起の網にかかりませんでした。 <br>あー、よかった。
よかったです(笑)プチキューの迫力ある絵は山内ふじ江さんですね! <br>昨日ですが山形から埼玉に行く用事があり、その道すがら雪雪さんのお店にも寄らせていただきました!お会いできませんでしたが、読書の冬に備えて以前薦めていただいた「ペドロ・パラモ」と、他にも「指差すことができない」「SEALDS×高橋源一郎」「MONKEY vol.7」を買いました♪消化していくのが楽しみです~!
雪雪さん、こんばんは。 <br>「生きる」(たくさんのふしぎ)は残念ながら版元品切れでした。 <br>替わりに岡本よしろうさんの絵を見られる本を探してみようと思っています。 <br>リスト、書き写すか印刷しないと何度も来てしまいます。 <br>(前のタイトルも好きでした!) <br> <br>以前「血が下がる」と書いたのは、わー私はなんてことをしたのだろう、という今更ながらの実感の追いつきと(人に本をお勧めするのあまりないです)、頭を下げるのは貧血に良いのと、お礼を言うべきなのだという混乱でした。自分で解説。 <br>きっと私のことですから悲しいところも寂しいところも落ち着くところも後ろの方に行くと怪しいところもあると思いますが、いつかお目にかかれる日がありましたら、ほぼ、の抜けた部分と、読んだもので印象に残ったものをお聞かせ下さい。 <br>レーダーはあんまり精密にしようとするとかえって悪くなるものですが、無邪気におすすめしたせきにんです。 <br>草々
たむらしげるはサボテンぼうやの冒険が好きです。他の作品をあまり見かけなかったので参考にさせていただきます!