_ ジャンプコミックスの『ワールドトリガー』の1巻が新刊台に積み上がっているのを見たとき、胸がきゅっとした。なぜかはわからない。そのときは忙しくて、そのまま通り過ぎた。ささいなことだ。すぐに忘れ去ってしまうくらいの。
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_ 多和田葉子が五冊に一冊くらいしか文庫化されないのはどうしてなのか。多和田版ハリー・ポッターと言ってよい(よくない)『飛魂』が文庫化されたのは嬉しいが、いちばんすきな『変身のためのオピウム』、持っているはずの単行本が見つかりません。早く文庫にしてください。
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_ スーザン・ブラックモア『ミーム・マシーンとしての私』。言葉に興味がある方におすすめしたくとも長年入手困難だったが、デイヴィッド・ドイッチュ『無限の始まり』で言及されていたものでひさかたぶりに検索してみると、なんと増刷されているではないですか。言葉のエサみたいな本ですよ。読むと脳内で(広い意味での)言葉たちがが「おいしーよう!」ってほっぺたが落ちるような表情をします。そして元気に駆け回る。あ、駄目駄目そっちは危ないよ!
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_ 安田剛士の『振り向くな君は』、とってもキャラが立ってわくわくするサッカーマンガでしたが打ち切りになって編集部をうらめしく思いました。ところが次の連載『DAYS』がまたしてもサッカーマンガで、いい根性してるなあ安田剛士。そんでふとマガジン開いて『DAYS』みてみたら、『振り向くな君は』の主人公たちの高校と試合している!思わずにんまりしてしまいました。書きたかったんだなあ、彼らを。
ひと昔前、打ち切りが迫っても、あたふたと伏線を回収したりせず、必殺の大ネタをひっそりと胸に秘めて復活のときを待った『べしゃり暮らし』の森田まさのり、あるいは『エビアンワンダー』のおがきちかを思い出したり。
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_ 打ち切りと言えば『賢い犬リリエンタール』。斬新なところはないのに、すごく新鮮で、得体の知れないマンガだった。打ち切りになったとき、当店のスタッフにはリリエンタールファンが何人かいて、そのうちのひとりKさんが「うちの娘がね、『おかあさん今週リリエンタール載ってないよ。どうして?』と訊くから『終わったの』と答えたら『終わってないよ終わってないよ』と言って泣いちゃったのよねえ」と言った。大好きなマンガが打ち切りになるたびに、人はおとなになってゆく。葦原大介は最終巻に40ページ近い加筆をしてくれて、それはすてきな加筆だったから、嬉しくていっそう悲しかった。
葦原大介には『リリエンタール』しかなかったから、『リリエンタール』の話をすることあっても葦原大介という固有名詞を口にする機会はあまりなくて、次作を心待ちにしていたにも関わらず、薄情なことに僕は名前を忘れていた。
先日、Kさんに「Aさんがね、コミックで加筆されていることを知らなくて、今頃買っていったよリリエンタール」と話しかけると「彼、今描いてますよね」と言う。「え?知らん。なになに」「ワールドトリガー」「あー、あれがそうか」道理で。
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_ 未完のままいくら時を経ても、忘れられずつづきを待っている。高山和雅『ノアの末裔』。堤抄子『エスペリダスオード』。たとえ終わっていなくても、コミックとしての、前者は私的なベストSF。後者はベストファンタジー。
待っている。オレンジ党だって33年ぶりにつづきが出たのだ。
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