王子の恋愛が成就しない腹いせに、青い高い塔を造った夏。落成直後に、毛深い飛行船が恋文の返事を届けてきたので、塔を見上げ「徒労だった」と呟く田舎の王子さま。王子に随行してリアルタイムにライティングをプロデュースするのが私の仕事だったが振られた。クビにはならなかった。腹いせに逆上がりをした。
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においによって架構された猫の神社に、姉崎の裏の牝猫が詣でている。皮膚病の快癒を願かけているのだ。
高台にある工務店の庇の上でふとった牡猫がそれを眺めている。それが俺だ。もういくつ寝ると発情期。ああいう信心深い牝を嫁にしたいが、あの病気がなあ。しかし腰高で尻尾が長いところが、どうにも好みである。こっちが頭だ、といわんばかりの高飛車で敏感そうなあの尻尾たまらん。
牝猫が立ち去るのを見計らって、のたりと地に降り神社に向かう。人に飼われたことがないので、文字で書ける名前はない。においが名前である。名前を発散して歩く。名前は足跡とともにほとほとと道に捺され、しばし残る。
境内に入り、俺も彼女の快癒を願う。木漏れ日をよぎって瞬くように彼女の名前が漂っており、俺の名前と混ざる。えもいわれぬ。仔ができれば、この名前が付くのであろうか。付けばよいなあ。
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ぞくっと来ました>870
僕の目につくかわからないところでも、たびたび激励してくださって、ありがとうございます。いろいろ不義理をして申し訳ありません。 <br>沈んでいるあいだいつも、きっとはやかつさんが待っていてくれる。戻らなきゃ、と思っていました。 <br>「黙示録(原題「水浪漫」)」、とても好きで、大切にしています。出会えてよかった。
激励など畏れ多くて…賞讃や感謝こそすれ。 <br>気にかけていただき、何と言ってよいかわからないくらい嬉しいです。 <br>私も低活性状態ですが、こうやってノソノソしていてもここは世界の突端だったんだ、と、その一言で気付かされます。ありがとうございます。
雪雪さん初めまして。雪雪さんの書かれる文章を読むことは私にとって不思議を読み解く謎解きのようでいつもわくわくして、時々雪雪さんの文章を思い出して日常と照らし合わせてはドキドキしたり、また逆にこういうことなのかなぁとまた不思議がってみたり。世界が違った角度から見えて新鮮な気持ちになります。雪雪さんのファンです。まだ寒い日が続きますが、ご自愛ください。
律さん、ありがとうございます。 <br>いろんな人が、時折こそっと言葉を残していってくれますが、それが他の誰かに投げかけられたものだったら、ああ俺もこんなふうに言われてみたいものだと、うらやましく思ったことでしょう。律さんの言葉も、自分がうらやましいくらい嬉しいです。