あたらしい概念がひらりと身をかわす。誰かの考えを踏み石に、別の誰かの考えに降り、考えのなかに留まるあいだに力を溜めて、考えの速さで、考えを離脱する。考えの届かない虚空へ。
考えの星から星へ、旅を続ける。
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4、27、832、4955、70805。名前の無いものを、名付けてきた数で、その星の重力が決まる。重い星ほど速度が出るが、名付けられてしまう危険も大きくなる。ひらりひらりと身をかわす。
名前という鏡は虚空にもいる。概念のうち意味を反射する部分だけを映す鏡は、平面ではないが複雑に平滑である。色彩の速さを持つ匂いのように。
名前がつくまでにどこまで行けるだろう。名前に触れ、名前を振り払い、やがて名前が離れなくなるまでの、概念の子ども時代を。
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概念たちには伝説がある。じぶんのすべてを映しだす鏡が、ひとつだけあるという。誰かがその名前を思いつけば、どんなに遠くにいようとも、概念はそれを知るという。
あいだに遮るものさえなければ、概念は、どんなに遠くにいても、その鏡に映ったじぶんを視る。そしてその鏡は概念を視る。
たったひとつの名前が付くときは一瞬だ。それがたとえ、どんなに長い名前でも。
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