_ なにか書きたいけれど、心が狭苦しくなっていて、助走の距離がとれないときに、読みたくなるのはクリスティン・ヴァラの『ガブリエル・アンジェリコの恋』だ。
二冊持っていて、いつもそばにあるけれど度々は手に取らない。
読み慣れてしまいたくないのだ。
長年、数え切れない本を読んできたが、いちばん好きな小説だと思っていた時期があるし、これからもそういう時期がくると思う。
もっと世に認められるべき名作だとは思わない。ただ、ぼくには合っている。この本だけが連れて行ってくれる特別な場所がある。
「読んでいるあいだ、時間が止まっていた」絶賛する人もいるけれど、ぼろくそに言う人もいる。「キャラに魅力がなく、キャラの造形や行動に説得力がなく、文章も冗漫で、新人賞に応募したら一次も通らないだろう。そもそもどうして出版され、その上わざわざ翻訳されているのか理解に苦しむ」というような評言に出会ったことがある。ぼくの感想は正反対なので、人の感じ方がこれほどちがうということが、おもしろくもありこわくもあり。
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_ いちばん好きな詩集は金子千佳の『婚約』で、こちらはずっといちばんのままだ。
現代詩手帖誌上で「夏彦」の最初の二行を読んだ時、ぼくの感覚は一気に広がって、そのときまで見えていなかったものが見えるようになった。たった十八文字で、なんだか馴染めない小難しい現代詩というジャンルが、一瞬で宝の山に変貌した。
その二行を、こんな場所に唐突に引用しても、魔法は働かないと思うから引用はしない。
「夏彦」を含む『婚約』は、ひとつの詩のとある行から、別の詩のどの行に跳んでも、詩の力が持続する。あたらしい無数の詩が生成されてくる。だから、『ガブリエル・アンジェリコの恋』よりも、もう少し頻繁に手に取ることができる。『婚約』も二冊持っている。
旧版の『氷の海のガレオン』(木地雅映子)と、『ギヴァー』の旧版『ザ・ギバー』(ロイス・ローリー)も二冊持っていたが、一冊は人にあげてしまった。あげるような人に出会えてよかったと思う。どちらも旧版のほうがよい。決定的によいと思う。
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_ 忘れ難い鮮烈な経験は、いつかまたそういうものに出会えるかもしれない未来を、ぞくぞくする場所にしてくれる。
とくに、おさない頃の、さっきまでの自分にはもはや戻れない悟りの経験は、いわば経験の原型となって、学び方悟り方の形式を定めてしまう。
前回書いたとおり、『カフカ式練習帳』と『偉大な記憶力の物語』のせいで、おさない頃のことをいろいろ想い出してしまい、そのことについて書こうとして書き出したのだが、枕が長くなってしまったなあ。
今日は寝よう。
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いつもここへ来てはなんと書いたら良いのか考えています。 <br>息をすることができるような本を、目に快い模様の映る本を、この日記にてご紹介いただいてありがとうございます。 <br>私も私の感覚でとらえた本を、人に手渡して行きたいなと思います。
そういう本を、僕もたくさん見逃していると思うので、教えてください寝子さんのとらえた本を。 <br>僕の好きそうな本を薦めてくれる人は、なかなかいないのです。
◆「魔法飛行」加納朋子(創元推理文庫) <br>※一作目「ななつのこ」の盛大なネタバレになってしまうのでシリーズとしてはそちらから読む方がいいのですが、私は書店でうっかり一目惚れしたこの二作目から読んでしまって独立した本としてこの文庫本が好きです。 <br> <br>◆「沙羅は和子の名を呼ぶ」加納朋子(集英社) <br>※単行本のほうが装丁が素敵でどきっとします。 <br> <br>◆「かもめの日」黒川創(新潮文庫) <br> <br>◆「光の軌跡」エリザベス・ロズナー(ハヤカワepi文庫) <br> <br>◆「どきどき 僕の人生」金愛爛(キム・エラン)(新しい韓国の文学07/クオン刊) <br>「あなたの名前のこだまが、私の名前であることを知っている。 <br>私の名前のどこかに、あなたが生きていることを知っている……」 <br>※本日書店で「幸福の遺伝子」リチャード・パワーズ をぱらぱら見ていたら書店員さんがちょうど平積み台の空きスペースにすっと出されて行きました。 <br> 青い色の風車の入った装丁に惹かれて導入部から引き込まれ、かいつまみ見るなかでもこちらを打ってくる言葉がいくつもありました。 <br> まだ読了していない状態でのお勧めですが(!) <br> <br> <br>持ち前のいけ図々しさを発揮してとりあえずの手持ちで飛び込んでみました。 <br>基本的には私の好きな本、になってしまうので雪雪さんに何割ヒットするでしょう。 <br>また少し、記憶の中の本屋さんや図書館を巡ってピックアップしてみます。 <br> <br>図書新聞の「八本脚の蝶」書評を読ませていただき、私が自分の勘で選んだ本を読み、きちんとレビューを書き残していくことについて折に触れて考えるようになっています。 <br>他の人が読んでくれそうな耳が気になる本よりも、目で惹かれて手から離れない本を読んで行くことが、多少なりとも私のような、本のなかに読みたいお話を探し歩く人に役立つことになるのかもしれないと、感じています。 <br> <br>(名前、ちょっと動物になりました。)