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雪雪/醒めてみれば空耳

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2008-07-25 真夏の残雪

_ 「地図にない国々」と銘打って、架空世界紀行・空想博物誌モノのフェアを挙行中である。ときどきラインナップを入れ替えるために、そういう匂いの未読の本をチェックしているのだが、そしてそういう動機がなければいましばらくは手に取らなかったと思うのだけれども、長野まゆみ『カルトローレ』が予想以上によくて、早速積み上げた。

『エンジンサマー』『ヴァーミリオンサンズ』『火星年代記』『大潮の道』といった水脈に連なる傑作である。良くも悪くも金太郎飴的な、いつもの筆致とは異なっているゆえ、代表作とはいえないがしかし最高傑作、という感じである。

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ピーター・S・ビーグルとパトリシア・マキリップの話を、『パブロ・カザルス 鳥の歌』と絡めてやりたい、というようなことをしばらく前に書いてまだ書き落としていないのだが、長野まゆみのことを考えているうちに、最も対極的な作家として残雪が立ち上がってきてしまう。残雪の既刊本は軒並み品切れで、中古市場では息を呑むような値段が付いているので、残雪を引き合いに出しても読んでいる人が限られていて伝わりにくいだろうなあ、という思いが先に立つのだがしかし、8月に出る河出の世界文学全集の次回配本に残雪が入る。

残雪は必読の作家の一人だと思う。残雪の道を残雪より遠くに行っている作家はたぶんいないから。いわゆる文学の領域を画定するとき、ひとつの方角の指標になる作家であると思う。

残雪をまだ知らない方は、8月9日をお待ちください。収録された作品のどれでもよい、冒頭からすこし読み進めば、この作家を好むと好まざるに関わらず、くろぐろとした凄絶な才能に蝕まれる想いがすることだろう。

読者の鼻の穴に指を突っ込み無理矢理おっ拡げるようにして、感性の幅を拡げてくれる作家である。鼻の穴がそうであろうように、拡がってしまってから後悔する感性かもしれないが。