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雪雪/醒めてみれば空耳

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2008-08-30 残雪に残る残雪

_ 平山瑞穂『ラス・マンチャス通信』の世評には、非常にそそられるものがあったが、ここまで読まずにきてしまった。単行本を店の棚に常備して、売れなかったらいつか自分で買おうと思っているうちに売れて、御客様えらい! と思いつつ発注すると品切重版未定になっており、これはしもうた、と思った。

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日本ファンタジーノベル大賞は数々の佳作秀作を送り出してきたが、その実りの多くを新潮社は品切のまま文庫化もせずに死蔵しているので、『ラス・マンチャス』もそうなってしまうのではないかと心配していたら角川文庫になった。ひと安心である。

さっそく読んでいるのだがこれが読み進まない。読んでいると残雪を思い出してしまい、残雪を読みたくなってしまい、残雪を読んでしまうからだ。残雪を連想させる小説なんてざらにはないから、『ラス・マンチャス通信』は傑作なんだと思う。

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残雪を読んでいるときだけ考えられることがある。残雪の小説は、物語の外からくる。

部屋の中で物語を読んでいるとき、外になにかが降り積むけはいがあり、本を閉じて外に出てみる。そこは思いのほか寒くて。物語の長い伝統の中で、物語の中から疎外されたもの。物語をたどたどしくし引き止めるもの。物語を立ち止まらせ振り返らすもの。そういうものが降っている。

部屋に戻れば、残雪の小説の中にそれが残っている。残雪に残る残雪。

なんらかの欲望や動機をもって小説を手にする人は、残雪にあるものを期待しないし、予想もしないだろう。読者は予想や期待を裏切られるのではなく、信じているとは気づきもしないものを裏切られる。

交わした憶えもない約束が、綻びるように破れはじめる。

失速して初めて、そちらが下なのかと気づく方向へ、撃墜されるスリル。