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雪雪/醒めてみれば空耳

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2008-03-08 叙景集

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◆郡山市営バス海岸線◆

バスで着くのならば馴染みの街であろうと見越しておとなしくしている。

停留所に止まっていないのに、乗客が微妙に増減している。後ろのほうにかたまっている濡れそぼった人たちは特に、何人いるのか数えようとすると、その数える勢いで増える。

床には無数の乗車券が散らばっている。かしこまった落ち葉のように張り付いて、人の老いのしるしのように、黒ずみの濃淡で世代がわかる。

バスの加減速の緩急が、エンジンの唸る音の旋律に遅れ気味で、歌に合ってない歌手の口パクを見ていた日のことを思い出す。

それがきまりなのかはやりなのか、乗客のうち、見当五歳以下の女の子は全員、いっしんに万華鏡を覗き込んでいる。万華鏡で運転しているつもりなのかもしれない。

湿ったバスに前後に揺られながら、揺られない自分の考えを頭が、追い越したり追い越されたりする。忘れかけ、忘れ切らぬうちに思い出しかけ、思い出し切らぬうちに忘れかけ、揺れながら揺さぶられて揺らいで、乗客たちはひとりひとりが崩れることのできない波頭であり、運転手の切り回すハンドルだけがひとり、渦の夢をみている。

バスが擦れ違う通行人はそのとき、海と擦れ違ったと思い、振り返り、四角い海岸線が遠ざかり小さくなるのを見送る。