◆夜夜中◆
地表面のもっとも太陽に近い一点を昼日中点と言い、その真裏、太陽から最も遠い一点を夜夜中点と称ぶ。夜夜中は自転の速さで地表を走る。その軌道を黒道と称ぶが、これは陰転して陽背半球を通るときの呼称であり、陽転して陽面半球に入れば白道と称び名は替わる。黒白道と赤道は年二回交わり、これを春分・秋分と称ぶ。
視程の及ぶ限り灯りの無い広野をえらび、黒道上に立って夜の更けるを待つがよい。
あなたは、地表の一点から天頂を差してまっすぐに伸び、高空で星光に触れて薄れる直線が、夜の闇を切り裂いて迫るを見る。振り下ろされる刀身を正面から見るように。それは夜闇の中でなおしるく、眼線が沁みるほどに深い黒の垂線。
怖じることなく踏みとどまれば、夜の中の夜が、あなたの眼と眼のあいだを通る。その刹那、磨きぬかれた夜は、光以外のすべてを映してみせるだろう。それはあたかも、線状の鏡のように。