ひとりだけを湿す霧雨のように名前がわたしに降ってきたときにはまだ物心がなくて、それでも名前はまださだかではない物心を狙ってしがみつく。短い脚で。
.
桃と林檎をサイボーグにする手術に蜜柑が反対する。
川で溺れていた水を掬い上げて、泳ぎを教える。
破られた約束は火曜日に収集される。百の約束から、ひとつのあたらしい約束がリサイクルされるのだ。あたらしい約束に、百度破られた記憶は残っていないのだけれど、ばらばらになった約束でできているせいで、千度破られたような気がしてしまう。「そんなはずはない」と自分に言い聞かせるから、いきおい百度のことも思い出さない。
踏み外さぬよう慎重に睫毛を渡る。
顔を洗い落としてしまい洗面器の水面に笑い返される。
地球の自転がいきなり反転したので夕焼けが次の瞬間朝焼けになる。