立て膝した膝小僧に、つつつと小舟が滑り寄り、えくぼのところにこつんと着いて、ぱよぱよと揺れる。
膝小僧の上で待っていた紺絣の女がふたり、ぼくを振り仰いで、「今何時ですか」と問う。まるでひとりのような声音で。
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思い出してはならない記憶の国から記憶が、思い出されに走ってくるとき、必ず開けた場所を通るので、ひとりを除き洩れなく狙撃されてばたりと倒れる。
思い出された記憶の森が、死体に指を伸ばして、それを養分にして繁みをつくる。ぽつりぽつりと繁みができてやがて繋がる。
だんだん森は薄く広がり、開けた場所を狭めてゆく。
あの日。たったひとりだけ、はしっこくてずるがしこい記憶が開けた場所を駆け抜けて森の中に突っ込んできたあの日からずっと。思い出してはならない記憶の国から記憶が次々と、思い出されに走ってきていることを知った日からずっと。
森は。
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