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雪雪/醒めてみれば空耳

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2006-04-06 出ていけの贈り物

_ 所用あって山の上にある東北大工学部に行く。蛇行する坂をバスはだらだらと登る。勾配はきつく、自分が通うわけではないが、冬場雪が積もったらどうなるんだろうと心配になる。

工学部の敷地に入ってから抜けるまでにバス停がむっつある。広い。学際科学国際高等研究センター、未来情報産業研究館を車窓から見送る。みっつめの停留所で降りる。附属図書館工学部分館。磁気共鳴電波実験室。創造工学センター。雰囲気は似通っているのに外観はばらばらの建物が立ち並んでいる。コンクリートで書いた寄せ書きみたいです。

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帰りに丸善に寄る。文庫の平台にレベッカ・ブラウン『体の贈り物』が16冊積んである。既刊のうちでは破格のあつかいで、「なにとぞ読まれたし」という担当者のインフォメーションなのだろうと思い買う。

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夕刻帰宅すると、断片的な、とにかく短いものを読みたくなって一色真理『偽夢日記』と北村虻曳『模型の雲』、森博嗣『アイソパラメトリック』、森博嗣/ささきすばる『悪戯王子と猫の物語』を読む。調子が出たので読みかけのクライヴ・バーカー『イマジカ』の二巻を読みコゲどんぼ『ぴたテン』を三巻から五巻まで読みいきおいで保坂和志『アウトブリード』を順不同に半分読んで文芸な気分になったので『体の贈り物』冒頭の「汗の贈り物」を読み始め、読み終わると同時にどん、と壁にぶつかったように止まった。びっくりした。

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少し前におなじような感触の壁にぶつかった気がする。その手触りをたよりに、そこにコネクトしている記憶をたぐる。ふしぎなことだが、こんなふうに方角がさだかでない記憶を手探りするときには、思い出すのがどれくらい困難か、思い出す前に分かる。探る指の触れる霧の濃さで分かる。今回の対象記憶は時間的距離が近く、タグが鮮明で、たどる指の数歩で行き着けそうだった。

これだ。リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』のなかの「出ていけ」。思い出せたなら「汗の贈り物」と「出ていけ」の繋がりがおのずとおもしろいことを思いつかせてくれるのではないかと期待していたが、かんたんには似ていない。

いつかなにかの繋がりを発見したとき、「以前おなじように繋がっていたふたつのものがあったな」という具合にこのことを思い出すのかもしれない。思い出さないのかもしれない。これはたぶん思い出す。繋がらなくても「まだ繋がってないなあ」と思い出す。