_ 頭のなかでなにかが割れる。
ぱきゃん。
割れたか。
なにが割れた。わからない。
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かけらが足の裏に付着する。思い出したことの足の裏に。
好きな人のことを思えば、その人の足の裏に。
足の裏の体温に溶けて、におってくる。
足の裏の厚みを便箋とする手紙。
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光がにおうときより速く、におってくる。
日付をいくつも追い越して、忽然とにおってくる。
においの濃淡に滑り込むように路地に入る。
においは鼻の死角に入る。
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記憶のなかにしかない街が、吊り糸に起こされる緑色の線細工のように
みしみしと立ち上がる。
この街でしか買えないものを買おう。
握り締めた掌のなかに手汗のふりをして滲む貨幣を握り締める。
あとどれだけ時間があるかわからない。
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空で
雲のように見えているのは雲ではなくて
砕けた時刻がもくもくと散り広がっているのだ。