_ ただ球形であれ。傍らに佇むみずからを見出すまでは。
濡れなさい、しかし。
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世界にまだ想い出がひとつもなかったころ
雨もまた降りかたを知らずにいた。
滴ることが可能になるまでは、溜まることも流れることもしんねりと黙り込んだままで。
液化の寸前でためらわれ、流動に向かうよろめきをこらえ、落下は重力に上の空で
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ぽかんとして。
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咲くという行為を発見したばかりの花。
「思わせぶり」に沿ってなびいている。泡立つものをけどりながら、時の岩場を昇るようなたどたどしさでそよぐ。
(呼ばれる虫はまだ存在していない)
散発的に芽吹く主語さえ収まりかたを模索していて、群落してうつらうつらする文の肩を叩いては、自己紹介をしている。
ひょんなことから収まることもある。
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あれかし。
しかし。
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世界の肌理は半睡のまま湿り気を呼び露を帯び、拍子を合わせてぱたぱたと扉、扇、瞼めいて振り返る蜜柑様光沢の表情を、及ぶかぎりの次元の隅々まで羅列している。台所の隅まで。ぴっちり。
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橙色。
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いちめんの橙色。
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眼に沁みる橙色の匂いのなかで瞬きながら、今日も取引に行く。橙色と橙色のあいだにも道はあると知り。知り初めし。知ることの。知りながらの。
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まだ固体に近い花々の波は、流れきたる方向に乗ることができる。
そこを取引が行く。
肉のなかに潜り命を取りにゆく刃物のように。
(二枚綴りの、伝票を持って)
とある色と隣接する色のあわいを。
行く。
(進化の支払いに釣りがあるとき、きまって小銭がない)
置く。
(まだ固い波のうえに)
なにをか。
なにをか。
(さては想い出をか)
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触れず交叉するところを知る曖昧な交易のいとおしさ。可愛さ。滲み出してくる。しんわり沁みる。
見開いた眼球に、橙色が歩いてくる。
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濡れなさい。