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雪雪/醒めてみれば空耳

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2004-03-20 叙景集

_ 576

「おとなになるのはやだょ・・」と呟いている祖母

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_ 577

耳がまばたきをしないのは、音じたいが耳の潤いだからだろう。

音のない庭に佇んでいると、静寂にも音色があることがわかる。

それは涙の滲む音。

音のないときにだけ耳は渇いて、涙を鳴らす。

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_ 578

大地をはぐれてななめに浮いた地平線を、虹が跨ぎ越して架かる。

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_ 579

視界の果てから果てまでを、断層が音速で横切る。

おどろいて蒼蠅は飛び立つが、かれには硝子が割れた理由はわからない。

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_ 580

音楽家の娘、それも年端もいかぬ娘がにわかに、たおやかに歌いはじめる。教えた憶えはない、聞き憶えもない歌。音楽家は一瞬呼吸を忘れる。

歌は、しあわせでできた土埃のように立ち籠める。視界が霞み、音楽家は自分の頬が濡れているのに気付く。心が追いつくより早く、身体が反応している。歌は音楽家の内部でどんどん大きくなる。彼の身体を聖堂のように使って。「知らなかった。人間がこれほどの音楽を奏で得る楽器であったとは・・・」これまで自分のやってきたことは音楽などではなかったと感じる。音楽家はきっぱり音楽家をやめて、音楽家になる決意をする。「ありがとう。生涯これほどの感動を味わう機会はもはやあるまい」彼は声を震わせ、心よりわが娘に礼を言う。

娘は歌いながら、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの父の顔を見上げる。(自分が人間の父親ではないと気付いたら、次になにになろうとするのかしら、この人は)

父はいっぱいになっている。父の限界を計測して、発声から余分な力を抜く。だいぶ抜く必要がある。