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雪雪/醒めてみれば空耳

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2004-03-08 叙景集

_ 552

樫の樹のなかから滲み出てくる人を待つあいだ、周りの樹々から投げ掛けられるからかいに、体内の水分をつんつんと小突かれる。

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_ 553

ずっとあちらを向いていた月がふと振り向き、「あ、そこにいたんだ」と地球に言う。

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_ 554

幽霊の剥製に詰めるための人工エクトプラズムを梱包するための箱で取った特許

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_ 555

門限を破って帰ると父が寝言で小言を言い始め、最後に「寝言だから気にするな、ムニャムニャ・・・」と付け加える。

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_ 556

液面の剣で風を斬り落とす。

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_ 557

◆黙族文字◆

「見慣れない文字ですね。けれどとても美しい…」

「これは黙族、あるいは沈黙の民と呼ばれる者達の文字です。かれらは聴覚を持ちません。この文字は発音されることがない、書かれるだけの文字なのです」

「発音できない文字は、黙読することもできないのでは?」

「いえ、私達だって表情や仕草を読むではないですか。手話というものもある。黙族の言葉は手話を中心とした全身のしぐさで語られるものです。語りはそのまま舞踊でもある。黙族文字は身体の動きを示す象形文字に近い記法です。ですから彼らは、文字で踊ることができるのです」

「ああ確かに、読めはしない私でも、体がうずうずしてきます」

「頭では読めなくても、体は読めてしまうのでしょう」

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_ 558

◆黙族の娘◆

しぐさで対話する黙族の娘がひとり、空気を編むみたいに胸元で手をこねまわしながら歩いてゆく。ぶつぶつと、独り言を言っているわけだ。