◆夕刻◆
木の間から見える低い家並に灯がともりはじめるころ
まどろんだまま自転車を走らせるぼくのうしろをついてくる 鐘の音だけでできた森から
とりどりの風鈴の群れがいっせいに飛び立つ
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ぼくの頭上を追い越してゆく色と音色の夕立
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「睡っている時間が日に日に長くなると、夢のほうがほんとうの生活になるのよ」
睡ったままで言った少女は、私を夢に見ている。
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「醒めている時間が日に日に長くなると、現実が夢になるのです」
なにもかも悟ったように語る男は、私に夢見られている。
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そう話している私はいま、醒めているのか睡っているのか。