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雪雪/醒めてみれば空耳

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2003-07-13 叙景集

_ 266

内股で歩きまわるほのお

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_ 267

◆朝まだき◆

覚めて眼を閉じたままでいるここは

すべてが鐘の音だけでできた街

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_ 268

月と太陽の狭間を、遠くからきた線状の闇黒が通り過ぎる。

プロキシマケンタウリの西へと流れ去りながら、どうしてかぼくに眼を留めている。

ぼくは夕飯を食べており、味噌汁のなかで対流するオレンジ色の亀裂のむこうから、くりくりと回転する無数の視線が湧き出してくるのをじっと見ている。

今夜の待ち合わせには遅れるかもしれない。

そうあなたに連絡しようと思うが、理由を言えない。

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あなたを見せたくない。

星々のあいだを舐め回す、くろい長い舌をもつものたちには。

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_ 269

古道具屋の店先には、どこから仕入れたものか色ばかりあざやかな椅子がどやどやと積み重なっている(合成樹脂でできた幼稚園児みたいに整列している)。ぼんやりと佇む箪笥たちでできた迷路を抜けると、店内には煮締まった色の書籍の山が臭い立ち、その後ろから仏像が微笑んでいる(横眼で蠅を追っている)。きっちりビニールで包装されたTシャツの胸にあざやかな、文字には見えない文字。天蓋つきのベッドの上では、売物の絵本を読みかけていた兄妹が、かすかないびきを掛け合いながら寝入っている(兄妹には値札がない)。

古いものならなんでも買いなんでも売るということなので、私は古い思い出を売って引き替えに古女房を買う。三日前の運動会ではじめて見かけて、いっぺんで欲しくなった女房である。主人がいつも備え付けてある記入済みの離婚届を手許の引き出しから取り出すと「ついでにわたしが出しておくわ」と女房が受け取る。

区役所の帰り、昼下がりの河原の道を歩きながら、本人から手入れのしかたなどを説明されがてら、二度三度くちづけをする。まだ古道具のにおいが染み付いたままの女房に。