_ 夢は、現実の記憶と混交しないようにという配慮なのか、ふつう記憶に残らない。たいていは、醒めてすぐ反芻しないと消えてしまう。
_ じっとりと汗ばんで、こめかみをどくどく鳴らしながら目醒める悪夢があるように、ある種の夢は体力を消耗する。
眼が覚めて、夢の記憶は一片も残っていないのに、からだには長い長い夢を歩き通した疲れが癒え残っていることがある。夢のなかで確かになにかが起こった。でもそれがなにか分からない。
昏睡したまま手術を受けたあとの目覚め。あるいは自分の結婚式の翌朝起きてみると記憶喪失になっていたときに似ている。
_ 夢のなかでいったい自分になにが起こったのか、つかみ所なく残存している印象の印象を、ほぐれぬように逃がさぬように手繰りながら進む。刻一刻遠ざかっていく夜の方角に眼を凝らし、暗がりのなかの失せ物を探そうとしているのに、邪魔だなあ、あの街灯の光。夜の時間の中途に、夜半物音に気付いてふと目覚めたごく短い時間の記憶だけが、むやみにくっきり残っていて、失われた夢の真ん中にぽっかりと浮かんでいる。そればかりが眼に付いて微妙な夢の印象が見えない。
島を見ているのに海がなかったとき、ちょうどこんな感じだった。