_ マスターはマスターをマスターと呼ぶ。
_ 呪砲の汚染によって廃虚となった街を、リュウとニーナが通り抜けようとしたとき、かれは全身をよろいで蔽った正体不明のキャラとして登場する。手脚のついた細菌培養器みたいでかわいい。呪い除去人仲間にも変わり者あつかいされているかれは、誰もが尻込みするなか、二人の案内を買って出る。「あなたが案内してくれるの?」「ちがいますよ。マスターがついていくって言ってます」じぶんのことを他人事のように話す。
複雑な仕掛けに出会うと、「こっちのレバーをリュウとニーナが、あっちのレバーをマスターが、同時に動かすといいようです」そんなふうにアドバイスをくれる。かれがしゃべるだけで楽しい。
まだ笑う以外の感情表現がよく身に付いていなくて、大ピンチに「ものすごく危険だそうです」と言ってくくくくくくくと笑う。「笑うところちがいましたか?」そう尋ねながら逃げ出す。ぺかぺか光りながらウィ〜ンとうなって走る。
頭に留まる小鳥を見ようとして頭部が左右にしか回らないので思うに任せないところも、へたっと座り込んで「マスターはおねむです」と報告するところもかわいい。言語獲得済みで知性を完備した堅牢無比な赤ん坊、という感じだ。
_ ぼくは一人称を使ってもなんだか三人称な感じがしてしまうほうで、自閉症の子と親和性があるのもそのせいかな?と思ったりするのだが、ゲームくんだりで思わぬトラップにかかったみたいに、どんどんマスターに感情移入してしまった。
_ 長い旅路と冒険(かれの正体をめぐる物語も重要な脇筋である)を経てのち、マスターはひなびた村で帝国軍に追い詰められ、長老とふたりきり窮地に陥る。「わたしのことはほっておいて逃げなさい」その長老のことばを受けてかれは、眼前の敵に「ほっておいて逃げろと言われたらどうしますか?」と意見を求める。かっこいいぞマスター。
_ 「マスターのおかげで見たり聞いたりできて、よかったようです」
辞世のことばも淡々としている。物語のなかでは、ぜんぜん淡々とひびかないのだが。
_ マスターを欠いた旅路の夜に、ニーナはひとりごちる。
「わたしたちの知っていたマスターさんはほんとうはいなかったことになるの?わたしがしんじゃうのとどうちがうのかな?」
_ 堅くてかわいくて物悲しくて笑えるふしぎなマスターには、『ブレスオブファイアⅣ』で会える。