_ 今日、初めての目醒め。
さっきまでいなかった私がここにいる。
疲労の重い名残りも、「起きたくない」気分も、なにもかもが新しい。
今までの「目醒め」の記憶とさして変わりない変哲のない朝。そんな想いを飴玉のように脳内でしゃぶる。
_ 「じぶんをたったひとつの言葉で表すとすれば、それは憎悪」子どもの頃、まじないのように繰り返していた言葉を、脈絡なく思い出した。
子どものころはっきり言葉にしてそう考えていなければ、そんな子どもだったことは忘れていたかもしれない。いまのじぶんと全然ちがうから。
_ 月並みな比喩は的確だ。憎悪は火のようだった。いつも炎が燃え盛っているから、もっとおとなしい、かぐわしい記憶やすてきな時間には、くろぐろと焦げ痕がついていた。傷んでいないものは何もなかった。
宿命や運命と名の付くものを憎んだ。ふつうであることを蔑み、自然であることを唾棄した。世界を灼き尽くしたいと念じ、じぶんを殺せば同じことだと思い、その素直な思考の流れを拒んだ。憎悪しか燃えるものがなかった。怒りしか燃料はなかった。復讐しか生きる力はなかった。憎悪のほかよるべがないことを憎悪した。じぶんが「このようなもの」であることを嫌い、嫌うことを嫌悪した。いささか一本調子な子どもである。
_ 空を見上げて、神か宇宙人か知らないが、「すべてを見知っている説得力のあるもの」が降りてきて、救いの言葉をもたらすのを待っていた。
「この子は狂っています」
早く救けに来てください。そばに来てくれないと殺すことができない。