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雪雪/醒めてみれば空耳

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2003-01-07 バベルの図書館夜間閲覧室

_ 胎児はどのような世界に産み落とされてもよいように、完璧な脳をもっている。

脳細胞は生後一年ぐらいまでのあいだに、数百億個という凄絶なペースで死んでゆくが、これは生まれてしまった世界に合わせて、脳が果断に削除され校正される過程である。不要とされた脳細胞は大胆に処分され、脳機能はこの世界に沿ってカスタマイズされる。まるで、あらゆる世界について書き記された無限の書物のなかから、読むに価するものを選定するかのように。

いわば胎児は実在する「バベルの図書館」であり、幼児はそのローカルな抜粋なのだ。

_ すでに誕生以前より、母体という外殻とへその緒というバイパスを通して、胎児はこの世界について旺盛に学び始めている。抜粋が開始される前からそれに備えて、じぶんが産み落とされるはずの世界に関するデータは粛々と蓄積されている。バベルの図書館の目録には次々としるしが振られていき、やがてそれにしたがい数知れぬ有翼胎児型ドローンたちが飛び立ち、薄暗い回廊に群がって、この世界にまつわる書物を選び出していく。

選定されれなかった書物はすべて、後刻焚書に付される。

_ 遺伝と環境の知能や情操に関する影響力の比率は、いろいろな算定があるけれど、いずれにしても環境は分の悪いコミを課されていることは否めない。なぜなら「バベル期」における環境の影響は、適正に環境陣営に算入されてはいないだろうし、むしろ遺伝側にカウントされているだろうから。

出産前後のこのとき、こどもは世界を相続し、決定的に変容する。

_ 母親は常に、識閾下で胎児の状況をモニタリングしているはずだから、眠りに就いて外界から遮断されているときなどは、昼間とは逆に胎児のなかに包まれて、バベルの図書館を渉猟しているのかもしれない(歩み入るのではなく、へその緒でジャックインして)。だんだんと書物がなくなってゆく果てしない書棚の連なりを、音もなく経巡っているのかもしれない。

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_ AmberlystEr (2023-02-18 05:00)

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