_ 水道事業において、「樹の根っこ対策費」が意外に馬鹿になんないのだ、という話を聞いた。
微少な漏れを検知するのか、管のなかの水まで察知してしまうのか、樹木の欲望は闇の中の水道管を探し当てて絡みつき、ぎしぎしとなぶりまわして歪めてしまうのだ。
_ 心のなかの樹々も、じぶんの欲望にしたがってじぶんなりの水を探し、ちゅううちゅうと吸っている。
最近とんと見かけない樹もあるが、どこか他人からやって来た渡来種が、ほかにいたときよりはんなりと馴染んでいたりする。
そしてどこから来たのでもない、初めからいたのでもない、ここで生まれたのでもない異界の樹があって、水では駄目なので、じぶんの欲望の対象を創造している。
それは幼い眼で見たときの樹のように、はっきりと見え、くっきりと想い描くことができるのに、けっして絵に描くことができない、そんな姿をしていて、「なぜあなたはわたしを愛さないのか」と訴える瞳のような記号になっている。
啜るものをうまく創造できれば、それが涸れるまでは生きていられるので、かれの生は安寧と渇望の二色の荒野だ。二秒生きて、五分死にかけ、またふた月生きる。かれの創造は、ぼくの想起なので、しゃらしゃらと鳴る気味の悪い根っこが、記憶のある決まった領域に絡み付いている。
絡み付いてぎしぎしいわせている。
もっと異界の樹のように見ろと、懇願している。