_ ぼくが一年で十冊しか本を買ってないのを憐れんで、二階堂奥歯さんが本を買ってくれた。プレゼントだから選択は言いなりである。少しく不安が。彼女とぼくは趣味がぜんぜん合わないからだ。おたがい十冊読めば、八冊は相手にとって屑だ。二人とも膨大に読むので、共通集合が大きいから、本の話題に困ることはないが。
奥歯さんのほうが、圧倒的に趣味がいい。蔵書からランダムに百冊選んでネットオークションに出したら、彼女のほうに三倍の値が付くだろう。
_ 今回ももちろんうれしかったが、永井均さんから『<私>の存在の比類なさ』をもらったときはうれしかった。一面識もなく、手紙も読者カードも出したことがなかったのにくれたのだ。いきなり著者贈呈で送られて来た。びっくりした。(そういえば)奥歯さんが一度会う機会があったとき、ぼくのことを話した、と言ってたなあ。奥歯様様である。本そのものより、もらったことがうれしい。「がんばりなさい」みたいで。「がんばるぞー」みたいな。
買った翌日に届いたので二冊になった。何度も読み返すうちにどっちがどっちかわからなくなった。すごく特別な本である確率が50%ふつうに特別な本の確率が50%の本が二冊になった。不確定性原理である。どっちかを処分したり、人にあげたりできない。