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雪雪/醒めてみれば空耳

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2014-01-22 書物のルーヴル

_ どんなジャンルであっても、趣味が嵩じて鑑識眼が磨かれてくれば、どんどんお金がかかるようになる。食材であれオーディオであれ釣り竿であれクルマであれ、良いものは値が張り、すさまじく良いものはすさまじく高い。

その点書物は例外的であって、歴史的な名作でも掃いて捨てるほどの凡作でも、同じような価格設定で買える。国際的な声価を得ている村上春樹の新作だから1500万円で売り出される、などということはない。

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書物は活字に落とされ複製可能な形式となって初めて完成する。書店に並んでいる書物はすべて真物なのであって、マウリッツハイスに行って『真珠の耳飾りの少女』の原画を見ないうちはフェルメールを見たことにならない、という言い方はあり得ても、漱石の生原稿で読まないうちは『こころ』を読んだことにはならない、とは言われない。

性能や水準によって価格が左右されないから、書店員は人類の宝であるような書物であれ、一年後にゴミになるような書物であれ、自由に陳列することができる。買う方は買う方で、なぜか同じような値段で並んでいるダイヤモンドやエメラルドや銀や鉄やゴムやプラスチックや石ころの中から、ダイヤモンドを買ってもいいし石ころを買ってもいい。それは自由だ(まれにダイタモンドよりすごい石ころがあり、そういうものを拾うことこそ醍醐味かもしれない)。

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一定以上の在庫量のある書店はどこも、書物のルーヴルだ。三千年の歴史が蓄積した必読の名作に限っても、一個人では到底読み切れない物量が揃っている。それも所蔵品をお手頃価格で売るルーブル。モナリザを何枚も積んで売ってる、そんなルーヴル。信じ難くすてきな場所ではないだろうか。

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いかなる水準の作品であっても、とりあえず買えば買えてしまう以上、こと本に関しては、その人がじっさい読んでいる本が、その人のレベルを如実にあらわす。

これほど人間の意識の動向が不用意に露わになる舞台は希少であって、書店員という仕事はほんとうに学ぶところが多い。愉快なことも、愉快でないことも学ぶ。たのしい、そしてきつい。

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本日のコメント(全3件) [コメントを入れる]
_ (2014-02-05 00:21)

雪雪さんこんばんは。私にとって読書の目的はほとんどが気分転換なので読んだ本はすぐ忘れてしまいます。でもふと本のページがパラパラ開いて謎かけしていったりします。どうしてかな、とだいたいそういう時は周りの人達のことを思い浮かべて嬉しくなったり悲しくなったりします。 <br>私の世界で出会った人達が今の私に必要な本を選ばせているような気がします。 <br>でも私が出会わなかった人達の宇宙のつまった宝石は私の未来を照らしてくれて、心の深い場所で家族や友達のように寄り添って奥底から自分に手を振って頑張れよって光をくれます。世界は無限ですね。 <br>どんな時も本屋さんに行ってずらっと並んだ本を見るとまだまだ何でもできるような無敵の気分になれます。絶対の頼もしい味方のような。私にとって本屋さんは力の源のような場所です。

_ ナナイ (2014-02-07 08:09)

微塵のお店も「読書イヤー」してほしいよー (質問リストへの答えに応じて、12ヶ月にわたり、その本を選んだ理由を説明する書店員さんの手紙とともに、素敵なパッケージにして郵送で本を届ける制度) @ミスター・ビーズ・エンポリアム・オブ・リーディング・ディライツ『世界の夢の本屋さん2』

_ 雪雪 (2014-04-22 04:17)

>律さん <br>僕も、本を読むのは気分転換のためです。気分を転換して別人になって、ふだんの脳ではできないことをします。 <br> <br>>ナナイ <br>残念ながら、そのような時間の余裕はないのだ。