_ 岸田今日子の、遺作を含む掌編集『二つの月の記憶』(講談社)が出た。棚から黙って売れてゆくことはないがこれで、同僚や、版元の営業さんや御客様と話が弾んで作家としての岸田今日子に話題が及んでよもや相手の心を揺らすことができたとき、しずしずと現物を薦めることができる。
宇山日出臣のたっての希望で(というか強い欲望により)実現した、メフィスト誌上での連載を纏めたものだが、宇山氏も岸田氏も、本がかたちになる前に逝ってしまった。宇山氏の熱意が無ければ、この七編が世に出ることなく終わったことはほぼ間違いない。「ありがとう」と言わずにはいられない。
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読後感は、「掌編を七編読んだ」というときの平均的な印象からは懸け離れている。
どの一編を取っても岸田今日子らしさが横溢しているが、今回の掌編群は殊に丁寧に折り畳まれていて、どれも容易に長編に書き伸ばすことができそうに思える。一編一編の長編化したすがたを想像してみると「ああ、いかにもあの人が書きそうだ」というふうに内外の作家の名が、それも優れた作家の名たちが思い浮かぶ。反転して言えば、もしこれらの掌編を凡庸な作家が書いたとしたらきっと、「尺が合ってない。短過ぎる」と感じさせるのではないか。
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岸田今日子の特長は、禍々しい品の良さだ。毒を毒々しくなく、歪みを歪めずに書ける。鮮烈に描くほど敷居が高まり読者を選んでしまうテーマ(ここでの「テーマ」は音楽に対して使う意味で使いたい)を、安易に平易に読ませてしまう。
野性から隔てられ、人の心の檻のなかで狂いつつあるけもの。牙も爪も鋭いそれを、力で捻じ伏せるのではなく首筋辺りの急所をきゅっと押さえて、「ほら、だいじょうぶ。おとなしいから」そう言って差し出してくる。
かわいくラッピングして、リボンをかけ、笑顔で、善意によって贈られる呪い。読者は、常ならば反射的に吐き出してしまうような異物をうかうかと、思わぬ深さまで招き入れてしまう。
無神経な比喩かもしれないが、夢うつつに犯され、目醒めてその痕跡に気付き、けっして不快に思ってはいなかった記憶に戦慄する少女の心地。それが岸田今日子の読後感だ。
蒼らんだ月が、すごく似合う。
おひさしぶりです(というご挨拶が適当であるならば)。<br>私事にてゴタゴタしていました。ネットに繋ぐことも適わぬ状態が続いていました。私的アドレスも変わる可能性あり(未定のまま)。ほとんどひと月ぶりに、「空耳」を開けました。<br>C.バタイユ、金子千佳、アニー・ディラード、岸田今日子、そして感情と理性、それに、あぁ、ウルトラ怪獣!!……、私書箱に溜めたままの手紙をひとつひとつ開封するように読みました。<br>私も、曲がることが好きです。ひとつの地点から別の地点まで、あみだくじのように曲がる角を変えて歩くことがよくあります。路を上るのも下るのも好きです。坂のある街が湛えているニュアンスを愛します。<br>私は今、どのような風景に出遭うかまったく予想もつまないままに角を曲がったところです。そこに待っているのが上りか下りか、遥かな海原か平原か、あるいは険しい山か曠野か、まったく何もわからぬままに。<br>けれども、これからの季節がとてもとても楽しみです。日々を大切に過ごしたい、こころから(ひょっとしたら「生まれて初めて」と言えるほどに強く)そう感じています。<br>ことば足らずですが、雪雪さんには、ひたすらなる感謝をお伝えしたい、と思います。<br><br>それにしても「禍々しい品の良さ」とは、なんと見事な評。「夢うつつに……少女の心地」など、どうしてご存じなのか、と、こちらが戦慄します。私もまた、自らの内にある何かを、「だいじょうぶ、こわくないから」と、誰かに差し出したことがあるような気がして……。<br><br>また、立ち寄ります。
追記<br>「ターゲット客層どまんなか」っていう企画を実現できる幸福と地団駄?とを想います。過ぎし日、私の「アイドル」はモスラでした。モスラの歌を暗記して歌い踊っていた幼女は、ひょっとしたら妖女だったかも、と思い起こしたりもしています。蛇足ながら。
おひさしぶりですウサギさん。<br>いつも元気づけてくださって、ありがとうございます。<br>ウサギさんからお薦めいただいた本は、手の届く限り読んで、発注に難のないものは店頭に並べています。幾冊かは、必要とする人の許に届いていると思います。
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