_ ブックオフ泉松森店にジャック・ヴァンスの『魔王子』シリーズ全五巻のうち三巻以外の四冊が105円で並んでおりました! 持っているけど布教用に買おうか迷うが、育成したいSF者が身近にいないのです。見送り。
主筋以外のアイディアがてんこ盛りで、重箱の隅を読ませるSFは基本的に好きだが、ヴァーチャルだのナノテクだのでファンタジィと境い目のない風景を描出してみせる流行りもんとはひと味もふた味も違い、ヴァンスの場合、てんこに盛られるアイディアは文化人類学風味。エキゾティックな習俗芸能服飾料理建造物事蹟へんな団体奇妙な職業。現実にはクソの役にも立たない脚注がまた美味しくて涎が出るよう。『魔王子』は風物がきらびやかなヴァンス作品中でも特に風光迷媚な、観光SFの傑作群だ。サルコヴィー、コーランヌ、ボニフェース、オリフェーン、ポンテフラクト、グッフナルメン、オオヒュルカン、マウントプレザント、セイルメーカービーチ、ファンタミック・フリッターウィング。こういったいかにもな固有名詞のひびきもヴァンスの魅力。ちなみに各巻一話完結式なので、三巻を飛ばしても読めます。
まだ売っているかなあ。いずれにしても背取りさんが巡回して、すぐに捕獲されてしまうだろうが。
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さそうあきらが触発されて、連載一本立ち上げたという「少女カメラ」を読みたくて、すぎむらしんいちの短編集『スノウブラインド』(講談社)に手を出す。「少女カメラ」は、あー読んだ記憶あるわ。両腰に手を当てて「わたしを名作と呼べ!」と言う貫禄の幻聴が聞こえ、「やです」と言いたくなる傑作。
「パパが地球人を辞めた日」がいい。再読三読するほどに味が出る。いろんな味があちこちから。
巻末の初出一覧を見ると、線の進化と初出年代が一致しない。いくつかの作品は全面的に手を入れているのか。
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倉島圭『24のひとみ①』(秋田書店)でとっても笑う。ほとんど純粋な論理学ギャグだ。設定が許容する展開の振り幅が異様に狭い。これでいつまでネタが続くのか。必要以上のデッサン力で描破される、ひとみ先生の姿勢の良さ、骨格の美しさも見処。しみじみと見惚れてしまう。斜め俯瞰の決め構図は、キャラ視点で右向きしかないことは責めない。右利きなのだろう。
併録の「メグミックス」は、すがすがしいほどに純粋なシモネタがベルトコンベアの上の部品のように流れてゆく。これでいつまでネタが続くのか。
坦々と操業を続けて欲しい。
施川ユウキの『サナギさん』もあるから、今はチャンピオンの天下だ。個人的に。