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雪雪/醒めてみれば空耳

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2006-09-25 叙景集

_ 781

きれいにダンボールに収まった廃墟が届く。産地直送で、滅びたての。

かろうじて残るぬくみが、豪雨に急速に冷やされている。かすかに、歌うたう機械の奏でる夏の日の恋の歌が、雨音に紛れがてに聴こえる。

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_ 782

「おにいちゃんなら絶海の孤島の翡翠の城に、ピーマンがだんだん好きになる魔法を取りに行ってます」

少女は無愛想に言う。

「それは君の好き嫌いの言い訳にはならない」

家庭教師は煙草を揉み消す。触手で器用に。

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_ 783

トビウオが海面を突き破ったとき、はるかな高みに銀色の飛行機がきらめく。

海に戻ったトビウオは仲間に、「肌色のかみさまをみた」と話す。

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_ 784

鉄条網を無理矢理

通り抜けてきた恋人のシャツに残る鉤裂きのように綻びた

理論を

心をこめて繕う博士

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_ 785

酸素を失ったぶん老いに蒼らんだ血液は静脈を流れる。すれ違う動脈の音楽。永遠にすれ違い続ける流れ。過去の心臓に押され、たちまちに老い、未来の心臓に迎え入れられればそこで、赫々と甦る。

とある心臓から動脈を経て静脈へ、そしてまた次の心臓へと受け渡されて、赫らみ蒼らみうねうねと長い旅路をどこまでも血液は流れてゆく。遠い未来には、ふしぎな、誰も見たことのない、止まっている心臓があるという伝承にはまだ半信半疑のまま。