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雪雪/醒めてみれば空耳

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2006-03-07 昼なお暗いオランダで育つ

_ 「使い古された言葉は使いたくない」という言葉は使い古されている。

使い古されるほど言葉の機能は安定して安心される。

死ぬ直前がいちばん健康だ。

あたらしい言葉はあたらしいほどぽんこつで持つところが熱くなったり汁を出したり使い方がわかられる前に壊れる。

あたらしい言葉はたいてい思いつかれる前に忘れられるし思いつかれてもかたちにならないしよしんばかたちになってもわざわざ書き留められて人に見せられようと思ってもらえたりしない。

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あたらしい言葉についての感覚は、視覚や嗅覚とおなじような独立したひとつの感覚だ。誰しもそれを持っている。しかしあたらしい言葉の通り道は狭く、寿命も短い。流れ星のようなものだ。だから、あたらしい言葉を見つけようとする人は常に、感覚の一部なりとも空に向け続けておく必要がある。なにかにどんなに集中しているときも、必ず上の空でいる必要がある。その空は、可能な限り暗くしておくのだ。白夜ならぬ黒昼。そしてその空の下にある大地は、見渡す限りの平原で、視界の端をよぎる景物はなにもないのがよい。

そこはたとえば太陽が昇り切らない世界のオランダ。

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現実のオランダには山がないから、冬になってもスキーができない。スケートぐらいしかすることがなくて、そういうわけでスケートが強い。オランダには山がないから、川は別の国の山から流れてくる。山から遠いオランダまで石ころを運んでこない。だから川に河原なんてないし、国中に石ころがない。

心のなかのオランダも、変わった性質をいろいろ持っている。そこに立つ人に、独特の風情を賦与する。さまよえるオランダ人どうしは、ニ言三言、言葉を交わせばわかる。