睡っているあいだに月は、文明に感染していた。
文明はきらめく網のような病巣を月面に広げる。月の大地から燃焼合成で取り出したシリコンで太陽電池をつくる。月の微小重力と低圧大気が、燃焼合成の繊細さを引き出すのだ。産物は金属の莢状の搬送体で地球に送られた。
虚空を、星よりもしげく瞬くものが、めまぐるしく行き交う。
龍と鼠の時間が違うように、星と文明の時間もちがっているので、それなりに存続した文明も星々にとっては一瞬である。じぶんが燃え上がっているように感じて月が目覚めたとき、もう炎なんてなかったし、文明もなかった。
月はまた睡り込む。星々が「もうすこし起きて待っていよう」と思うほど、宇宙が興味深いふるまいを始めるのはまだ先のことで。
二度と搬送体が打ち上がることもなく、月面にはただきらめく瘢痕だけが長く残った。月が気づかない程度に細々と、燃え続けていた。
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あるとき太陽になってしまう夢をみて目覚めた月は、ひとつのおおきな太陽電池になっている。
でも月は泣いたりはしない。驚きもしない。今はまだ。