_ いきなりの教室。答えたくてたまらない生徒達が挙げる手のように季節外れの花々が咲いている。ペインクリニックの庭に。
的確なツッコミとして雲間から陽が射すが、なにものがいつどうボケたのかは判然としない。思い出したように景色は色彩を鮮明にする。そしてまた翳る。
遠く近く、電線が景観をよぎっている。電線は道を知っている。まっすぐな道だけを。自重でじぶんがたわんでいることは知らないのだが。
マンションのベランダに垂れ下がった無数の蒲団たちが、曇り行く空を警戒している。すかさず取り込まれようとして、鋭敏になっている。号砲を待つランナーの姿勢で。
雲が流れ、明るみが少し盛り返す。はびこっていた薄い影が物陰に退却して身を寄せ合う。
兄妹のようなマンションのあいだの私道から県道に出て南東に歩くと側溝にぴかぴかのホイールキャップが落ちている。照り返しで寝言をつぶやく寝過ごした満月。
塵芥処理場の駐車場を通り抜ける。アスファルトの上に鳶の影が貼り付いている。気がついた途端に、しずしずと動き出す。なにもかもがそうだ、気がついた途端にしずしずと動き出す。すでに顔は仰角を上げ、視線が鳶を追尾している。
ある種の質問が答えを求めないように、ある種の答えは質問を要しない。
鳶はぼくの視線をぽんぽんと蹴るようにうごく。
<br>No ifs, ands or buts.