どんな悲しいことがあったのかは知らない。二度と3時22分を差したくない時計が、針のすすみをこらえている。
内部機構が歯を食いしばる音がする。3時21分にしばらく踏み止まっている。
長針の先はふるえはじめ、たちまち見えなくなるほどの周期で唸る。みずからの唸りが、触れられることのできるすべての部分をくすぐる。
文字盤が一瞬泣き笑いをして、力尽きた長針が一気に55分まで跳ね上がる。
そのいきおいで、投石器から放たれる石のように聴こえない苦鳴がすっ飛んでいったのは見たが、床をからころと走ってベッドの下に転がり込んでいったところは見逃す。
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ノーベル初恋賞をもらった人の、二番目の恋人になる。