_ 列車に入り込んで座って本を読んでいたら、この街がやって来た。列車を降りて、ながいあいだこの街を歩き回った。
記憶のなかでは移動による時間経過や疲労は省略されているので、想い起こすときには、立ち尽くしているぼくのまわりでこの街が、流動しながら成長していく。
建築物は呆然とすることが目的の植物のように、たんたかたんと組みあがっては、ぴたりと静止する。そのあとはなにをされても黙っている。心はそこにないのだ。宅地を薙ぎ倒すようにうねうねと溝が彫られたときも、家々はみな黙って崩壊していった。溝に沿ってぴかぴかの線路が這いずっていった。北東に向かって。
記憶にながく留まるほどゆっくり動くものたち、そのほとんどは人間だけれども、そういうものたちは盛り上がってくる。ぼくのまわりにみみず腫れのようにもこもこと盛り上がって、網のように重なりあって交差し結ぼれて、しかしすぐには癒着しない。まだ記憶が温かいうちに、それをほどくのが、一種の余暇だ。