おさない帝国の皮膜に霧雨がかかる。帝国領のどの角度も、意味のある産毛におおわれている。
すべての産毛が、帝国の表層にべっとり貼り付いてゆく頃、踏み外したような下町の工房ではおもむろに法律が作られはじめる。法を編む内骨格型の織機が、きったんきったんと関節を鳴らして駆動する。産まれ落ちた法律は機音に乗ったまま、拍子を合わせて愛らしく頭を振りながら工房を離れ、さらさらと砂の川のように街路を流れ流れて、おおむね見目のいい条文から順に適用されてゆく。
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やがて雨はやみ、帝国を蔽う産毛が、うぞうぞとそそけ立ってくるのは乾燥のせいばかりではなくて、「朝までに」納期としてそう指示された朝というものがついに、禁じられた直線を予兆として、はるか東方より高速で近づきつつあるからだ。
街の底でおののく矮躯の工員たちもまた一様に産毛に蔽われている。ひとつふたつ近場をよぎり始める光子を、産毛たちが待ち受け、さわらぐ。工員たちはぼりぼりと我が身を掻きむしったり、無闇に四肢を振り回したりして、光を払い落とそうとする。
産毛の群れが、あちらの胸壁こちらの人肌そちらの屋根の上で、中腰になりつつうかがう空の高み、なめらかに湾曲した虚空の生地に、朝の最初の一団がしっとりと沁み込んでくる。