少しずれた空にあおざめた月がかかる。折れた頬骨を癒すこともなく。
西の岸辺の森は、みずからの吐く息にけぶり、うすく引き延ばされた唸りにふるえ、風を刺し陸を噛む。
夢みがちな海賊が、思い出したくない思い出を売り飛ばしにいく忘却の航路。
値札の付いたわたしは、甲板でこぶしをいたわっている。 いちどだけ月までとどいたこぶしを前歯で噛む。
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昨夜巨きな人が山から出て、田頭から只見沼のあたりまで燐粉に沈めてしまったので、手の空いた者は総出で浄伝寺の縄喚びの黒鏡を持ち出した。堰の水をできるだけ太く綯うと、あやかしの跡を睨める者が先導して、青らんだ道をその水で縛った。
音垣屋の次男坊が農協から帰ってきしなに、結び目に気付かずにバイクごと突っ込んで、大事には到らなかったがその後五日ほど、前触れもなしにびしょ濡れになるので風邪をひき込んで伏せった。