_ 通い慣れた道をふと折れてみても、やがては見知った道に出るものだが、たまに深みにはまることがある。
道路案内で見当をつけて、帰途に近づく方向を選んだつもりで、その先の岐れ道では、どうも矛盾した表示に出会い、修正しつつ自転車を走らせていくうち、なんだか上り坂に次ぐ上り坂が続いて、聞いたこともない名前の真新しいトンネルに出会ったりする。陽が照ってなお寒い日は、トンネルの中はいっそう寒い。寒風が吹き込まないぶん、路面も陽光にぬるまないからだ。
漕ぎ進むほどに渡る川筋は細まってゆき、視界は左右とも山肌に遮られて、太陽も稜線に触れなんとしている。明るいうちに帰れるだろうか。
人里離れた路肩にとつぜん、砂利敷きの空き地があらわれて、車なんか一台もない中古車センターとか、手書きの看板の食堂が、すでに意識を失ったまま建っていたりする。寂しいし、いい加減腹が減ったぞ。
上り坂がようやく尽きて、人工林に挟まれて緩く下る直線に出ると、路端の繁みに埋もれかかって、蛍光色の「ダイエー○○店 3㎞先左折」という野立ち広告がある。しかし気を許すことはできない。どうせ左折してからまた何キロもあるにちがいないのだ。