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雪雪/醒めてみれば空耳

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2003-07-02 叙景集

_ 262

迷宮の婚約者は、「月光の一歩うしろの夜」と名乗った。ねじれた唇で。

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_ 263

お昼休みだよ。

屋上のフェンスの下から脚を投げ出して、縦棒のあいだから顔を突き出して、折り重なる家並みを眺めて。

窓のない大きなペールグリーンのビルディング。見たことなぃぞぅ。いつできたのだ?

チャックからはみだしたワイシャツのすそみたいな、まっ白い巨大なぺなぺなが屋上から伸び上がっていて、端のところがふるふると風にふるえている。

見た目はまんまティッシュの箱だけど、そんなはずないから。

考え込んでいるうちにあやうくお弁当を食べ損なうところをたすけてくれたこと忘れないよ。食べ終わるまではぜったい。

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_ 264

「そのむこうにあるもの」を見つけなければならない、っていうけどその「その」ってなんだよ。見当もつかないよ。

そんなふうにぶつくさ言ってる犬について夢想している川を、当の犬の死骸が流れていく。

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_ 265

死んだ母が、おさないころぼくに、「あなたは眼を閉じたときにだけ見えるものを大切になさい」と言った。

言われたことさえ忘れていたのに、ふいに思い出した。

眼の見えない女の子への、プロポーズの言葉を考えているとき。