_ 鉄棒というものはみな、「あか」という色を思い出そうとしている黒いろに錆びている。
_ 眼を近づけると、思ったより細かいでこぼこが地形のように複雑に入り組んでいる。
こうべを傾けて鉄棒の上にこめかみをことん、と落して片眼をつむってみると、円筒形の大地がはるか彼方まで伸びているみたいに見える。
大地の尽きるところは、もっと大きな大地に立つ巨大な塔状建造物の、最上部と接合している。
_ 円筒形の大地で人々は、光のない内側の曲面に住んでいる。光のない世界で彼らは眼というものを知らないだろう。彼らはきっと耳で風景を見るだろう。
_ ちょうどぼくのいる公園の脇を始発列車が通過するとき、時をおなじくして、微細な針のような列車が鉄棒のなか、ぼくの耳の真下あたりを通り過ぎて行く。そのひびきが伝わってくる。
急用のある人々を乗せて、ぼくの頬の方向に向かって離れていく。
_ 微塵のような乗客のなかでただひとりだけ、ぼくのけはいに気付いて、
はっと息を詰めたことがどうしてかわかった。