_ 車の通過も間歇的な深夜だが、四車線どうしが交わる大きな交差点だから、しばらく眺めるうちにはそれなりの数の車が行き交うのをぼくは見送っている。
ひとつ西に向かう道だけは、そこからあらわれる車も折れてゆく車もない。どうなっているのだろう(ぼくの関心がその道へと折れてゆくのが見える)。
広々とした道は、街灯のふちどりもなく寝静まった住宅地のくらがりへと伸びていて、少し先でこうこうと明るんでいる。
遠くで鳴った舌打ちのように聞きつけた音は、頭上で信号が赤から青へ切り換わる音だ。
ゆっくりと通りを渡り西への道に入り込む。やはり車の気配はないので、まんなかを歩く。意味もなく蛇行してみたり。
少し先のほうで、道路の幅員いっぱいにガードレールが行く手を阻んでいて、その向こうに赤いしましまの看板が立っている。広告みたいにライトアップされている。遠くから見えた明るみの正体だ。
「転落事故防止のため、この場所に入ったり遊んだりしないでください」
広告ではなく、警告だった。入ったり遊んだりせず、入るだけにしよう。
ガードレールを越えて看板の後ろへ進む。背後の明るさに押しやられた闇がくろぐろとわだかまっているが、足許に気をつけながら歩いてゆくうちに眼も慣れてくる。
四車線の舗装路が、いきなり断ち切られたように終わっている。のぞきこむとその先は、ばったりと倒れた野原のようだ。丈高い雑草の生い繁る急斜面が、ざわざわとさやぎながら落ち込んでいる。斜面の裾から先に眼を遣ると、区画整理済みの整然とした家並みが平然と続いているばかり。この道の将来を暗示する伏線はなにも見えない。
「おまえいったいこれから先どうするつもりだったの?」
思わず道に話しかけてしまうが、道は黙ったままだ。
視界ははるかに開けているが、低い雲の腹がほどけてぼんやりとけむっている。中景を裂くように横たわる濃淡のない暗がりが、右手に向かって幅を広げてゆくのを眼で追う。それは河口に近づきほとんど傾きをなくした静粛な川だ。
遠く市街地の夜あかりが靄に映えて暈をかぶり、巨大な誘蛾灯のように見える。そのサイズに見合った蛾がおびき寄せられていけば、この距離からでも視認できることだろう。そう思って、誘蛾灯のまわりを見張る。煙草を一本喫い終わるあいだ。
こんな、なにを考えてもよい時間には、どうしても死んでしまった彼女のことを考えてしまう。
彼女についてなにか書きたいと思う。
書けると思う。
書けると思ったのは道路の切断面に立っていたときで、書けると思ったから帰ってきたのだが、こうしてさっき見た景色のことなんぞ書いている。
三年たって自分の文章を読むと、決まって身悶えるが、ここ数日はふとした拍子に三年たつ感じだ。書けると思った自分の気持ちが、書こうと思ったときにはもう別のものに変わっている。
どんどんどんどん変わっていって、いつ落ち着くのかわからない。
いろいろな想いが、道路のように、ぷっつり終わる。