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雪雪/醒めてみれば空耳

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2003-03-30 叙景集

_ 166

南から北へ踏切が走る。いままさに通過する地点の人だけが一瞬、警報を聞く。

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_ 167

「君のお母さんを一言で表現するとどんな感じ?」

「感じるほどに言葉遣いが丁寧になってゆく娼婦」

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_ 168

遠くから戻ってきた記憶が、窓辺で踏み迷っている。わたくしは気付かないふりをして、書き物を続ける。

記憶の視線を、わたくしのもののように感じる。

スタンドの明かりが透けてピンクになったわたくしの耳の裏を、じっと見詰めている。

いま思い出してもらうか、それとも出直すか、思案しているのだろう。

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_ 169

「プロフェッショナルと見込んでお尋ねしますが、あなたの技術なら、蜜柑に変装できますか?できれば全然似ていないふたつの蜜柑に」

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_ 170

【シュニーフ】

①恋人や配偶者の手紙・日記を盗み見ること。②友邦に対するスパイ活動。③自分の著作中の剽窃した一節。④信仰上の不安、または後悔。

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_ 171

二の腕に白茶けたぶつぶつができた。眼に近づけてみると、それが墓場だとわかる。ひりひりするので舌で舐めると、石の味がして、鋭い角が味蕾にひっかかる。

軟膏で治癒してしまうような、はかない墓場に葬られる運命について、しばし考える。

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_ 172

虚空で握り返される掌

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_ 173

あの人の唇を出たときには確かに言葉だったのに、ぼくの耳の穴を通過するときには砂になっている。さらさらさら脳のなかに絶え間なく流れ込んでくる。じきにぼくはいっぱいになり、あの人は空っぽになる。

そういう夢を、砂時計がみている。

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_ 174

もーいーよ、の声に眼を開けると、早朝の交差点のまんなか

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_ 175

「あれは・・・・見ているだけで視線が掻き鳴らされるようですね。なんという生き物ですか?」

「雪から雪へ飛び移る方法です」

「ああ、そうか、あの可動部分は踵なんですね」

「主要な感覚器が踵なのです」

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_ 176

雨勢が強く、石畳の上で無数のちいさなつるぎが踊るようだ。二千年も見ていると、石畳が震える鏡になった。

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_ 177

えんえんと爪を切る音が聞こえる。