夢が誘う台地には、懐かしさによって餌を捕える街が、じっと息を潜めて訪う者を待っている。
分泌された懐かしさの余剰が、地下水に流れ込む。地の底を這って川に沁み入り下流の人々の夢見に混入する。五つ六つの季節を費やし、体験を欠いた思い出を、人々の内心に忍びやかに醸成する。
生まれ育った街より懐かしい街に擬態する〈それ〉は、街に身をやつす前、じぶんがなんであったのか知らない。気にも留めない。懐かしさは体液として〈それ〉の体内をめぐるだけで、概念を理解させるには及ばない。
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あまりにも激しく祈る者は、自分に向けられた祈りには応えないもの