_ 男は私の書いた詩を2秒か3秒ぼんやりながめると、匂いを嗅いだり、なめたり、陽の光に透かしてから、「この字を書いてあるところだけが詩なのかい?」と聞くのだった。
(高橋源一郎 『さようなら、ギャングたち』)
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_ おもしろい本というものは、そこに書かれていないことこそがおもしろい。
眼を上げて、字面以外のところを読んでいる時間が、長いほどおもしろい。
それがたとえば200ページの本なら、むくむくとふくれて300ページにもなるし500ページにもなる。読み返すたびに、またふくれる。
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_ でかけようと思っていたのにあいにくの雨で、くるりと空振りした気分のときなどに、お気に入りの本を取り出してひさしぶりに読み返してみる。いままで見えなかった新しい行間が見えてくる。記憶にない愛読書に出会って、新鮮な感動を覚える。
これぞ豊かな読書体験というものだな、などと思う。
思ってはいるのだがしかし時には、
もはや以前のようには読むことができなくて、ひもじいと思うことがある。さもしかろうとも口惜しいと、焦がれるような思いをきたすことがある。
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_ 大切に手許に置いてあっても、二度と読むことができない本が、何冊かある。そこに書かれていないことが、すっかり書き換えられてしまって、もうおなじ本じゃないのだ。
本のほうからすれば、察するところ「まえに読んでくれたあのひとに、また読まれてみたい」って思っているかもな。
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