«前の日記(2016-03-21) 最新 次の日記(2016-06-24)» 編集

雪雪/醒めてみれば空耳

2002|10|11|12|
2003|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2004|01|02|03|04|05|06|10|11|
2005|02|04|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2008|01|02|03|04|05|06|07|08|09|11|
2013|05|06|07|09|10|11|12|
2014|01|03|04|06|08|09|10|
2015|01|02|03|05|06|07|08|09|10|11|
2016|01|03|04|06|07|08|09|11|12|

2016-04-19 ゆるやかに流れゆく雲のように見える群れ

_ あなたがまだこの世にいなかったころ

私もまだこの世にいなかったけれど

私たちはいっしょに嗅いだ

曇り空を稲妻が走ったときの空気の匂いを

そして知ったのだ

いつか突然に私たちの出会う日がくると

この世の何の変哲もない街角で

.

(未生  谷川俊太郎)

.

_ だいぶん間があいたけれども、前回中途になった『ぼくはこうやって詩を書いてきた』の話。谷川俊太郎は著書が多いから、このタイトルから推測される内容とかぶりそうな本も何冊かあるわけでまあそういうものだろうと高をくくっていたところはたして案に相違した。よいほうに。

届いた現物が、A5判736ページという辞書なみの代物。

もっとも親交の深い編集者である山田馨氏によって長いキャリアから選ばれた88編の詩(最初の一編は、なんと小学校五年の授業で書いた詩、二編目は十六歳。当然未発表)を肴に、谷川氏と山田氏が、一杯やりながらいいこんころもちでダベる。書物のスクエアな外見に反して中味はほとほとぐだぐだで、フォーマルな設定の座談では出てこない迂闊で危うい味わいがたまりません。

.

話題は谷川氏のプライベートにもずかずか踏み込んでいく。というのも、88編は世評の高い代表作というよりも、変転してゆく詩人谷川俊太郎の転機を象徴する作品という観点で選ばれていて、詩人の実人生における出会いや別れ、心境や環境の変化がどのように反映しているかということが話題の軸になるからである。付き合いが長く、痛い腹も痛くない腹も探ることができる山田氏だからこそ可能な切り口。そして対象が谷川氏だからこそ可能な切り口。現代詩の現況では、公刊された詩集がある詩人でもよりによったら88編選ぶとほぼ全詩集になっちゃいますから。そもそも詩人自身の、パブリックイメージがないし。

.

知らなかった情報も満載。キャリアで一度だけ到達したミリオンセラーの話が出る。当世100万部売れれば一世を風靡した感じになるし、タイトルを挙げれば「あー、あったねえ」となるものである。

100万部アイテムをひとつも持ってない人気作家や一流出版社はざらであって、さらばもっとも本が売れる詩人である谷川俊太郎といえども「100万部?そんなのあったっけ」というのが大方の印象ではないか。

わかります? あれですよあれ。とかなんとか言ってここはタイトルを明かさずにおきますけれども。

(冒頭の詩は、あまりも短く緊密で、部分を取り出しようがなく、あえて全文を引用しました)

.

本日のコメント(全5件) [コメントを入れる]
_ 寝仔 (2016-05-30 09:40)

おはようございます。 <br>少し動けるようになったかなという気配がありまして、6月と7月の雪雪さんのお店にいらっしゃる、対応可能そうな日時を伺いたいと思います。 <br>すべてを挙げると窮屈だと思われますので適宜調整お願い申し上げます。 <br>できれば6月中には伺いたいです。 <br>この歳で新幹線に一人乗車が初めてで方向音痴という不安要素はありますが、そのぶん乗換駅に早めにつくよう計画しようと思います。 <br>谷川さんの本は、詩とはこうであるというところからだいぶ離れていて、読んでいてリラックスします。 <br>(もし可能であればなのですが、悩み相談などではなく、少しお話するお時間を頂けましたらと思います。抽象概念を取り扱うに慣れていない頭なのですが、お会いしたら尋ねたいことがあるように思うのです。もちろん、その場でもノーを言う主導権は雪雪さんにあると私は思っています) <br>↑具体的でなくて申し訳ありません。 <br>寝仔

_ 寝仔 (2016-06-05 01:49)

雪雪さん、こんばんは。 <br>どうも新幹線に乗ると私のお化けだけがそちらに着きそうな停滞期です。 <br>様々予定の落ち着くかもしれない秋頃まで、リハビリに勤しみます。 <br>ダールワス・サーガをようやく読むことができ始めて、その頁をふむふむと読んでから翌日に空想してみて、ああ、それは素敵だな。と思いました(本当です)。 <br>やっとルーディが出てきたところです。 <br>特に医師に宣告されるような病でもないのに余命を測りかねているのが、私の落ち着いていない証拠だと思いますので、この私でうろつきまわるのはよしておいて、また文字の私で立ち寄らせていただきます。 <br>どうでも良さそうな不思議についての好奇心が、その表現体ゆえにかスライスされたベーコンのように、なぜでしょうか、それはでも樹脂加工されて額に入れられちゃったりします。 <br>そんなことを感じる今日この頃です。 <br>雪雪さんは、その思考の流れるままに、相手をしぼる労力よりも、その言葉にこそ棲み、時々それをひっくり返して見たりしていて下さい。 <br>谷川さんの詩集を一冊取り寄せました。 <br>一人の(ふたりの)ひとの一生が本になったような本で、お気に入りです。 <br>それではまた。

_ 寝仔 (2016-06-06 16:12)

雪雪さんはたぶん、御自身の思考と言葉の走りかた、飛行のしかた、跳躍のしかた、現在の人口に膾炙している物理範囲での比喩的説明にもどかしいところがあると思うのです。 <br>なので上に書いた私の喩えは気になさらないで下さい。 <br>つまりお返事として書く時に限定しなければならない方向や、刈らなければならない言葉、そうしたものへ割く力。 <br>それは一般に書く人でさえ想像しがたいエネルギー変換だと私は推測します。 <br>それは独り言として、雪雪さんの水準で日記に、充分に整った文として書くよりも、大変なエネルギーを擁すると思います。 <br>独り言の自由さで、しかし伝えるために雪雪さんが書く言葉は力強く確信に満ち、しかし可能性と不可能性に開かれており、励まされます。 <br>励まされるけれどその為でなくて、余分な斥力は置いて。 <br> <br>谷川さんの私が書いた上記の本はほとんど一人の子どもに似ています。「どきどき僕の人生」がそうであるように。 <br> <br>何を書こうとしたか忘れました。 <br> <br>あ、インゴールドは、紫堂恭子「辺境警備」の隊長さんと同じくらい人生の痛みも悲しみも(そしておそらく喜びも)身体に刻んだ素敵な人です。 <br>缶ビールを見る度に彼を思い浮かべられるならこんなに楽しいことはありません。 <br> <br>どうか心配されませんよう。 <br>寝仔

_ 雪雪 (2016-06-14 03:05)

寝仔さん、いろいろありがとう。 <br>あなたの言葉を読んでいると、ふと我に返ります。 <br>調子が整いますよう祈っております。 <br>気が向いて体が合いましたらみどり書房桑野店の東野あてに、お電話くださるとよろしいと思います。 <br>ご無理は適度に。 <br> <br>僕は物語の中で出会ったあらゆる魔法使いの中で、会えるとしたらいちばんに会いたいのはインゴールドです。

_ 寝仔 (2016-07-09 01:43)

雪雪さん、ありがとうございます。 <br>了解いたしましたの事後報告です。 <br>適度に、落ちないように自転車を漕ぐような感じで行けるといいです。 <br>景色を見たい時は止まったりしつつ。 <br> <br>無くならないアドレスはここにあるのを忘れておりました。 <br>なんにせよ、完璧主義になりがちな私の穴埋め作業ですので、雪雪さんは雪雪さんの世界で、探検して下さい。 <br>私も私の世界で探検して、お、これはアンテナ? と思うものを見つけたらこちらにすかさず参ります。 <br>人間のゆくすえについて、それから好奇心について、いつかお話したいと思いつつ。 <br>また参ります。 <br> <br>寝仔